なぜプーチンはアメリカ政府の標的にされているのか?

マスコミに載らない海外記事   メタボ・カモ


Mike Whitney

アメリカ政府は、ガス収入を大幅に削減させて、ロシアを経済的に弱体化させ、ロシアが自らあるいはその権益を守る能力を奪うことを狙っている。アメリカはヨーロッパやアジアには経済的に統合して欲しくないのだ。事実上のEUロシア同盟は、アメリカの世界覇権にとっては直接の脅威なのだ。”

2014年4月28日

Counter Punch

ウクライナにおけるアメリカの挑発は、中東からアジアへと焦点を移す広範な戦略的計画である、アメリカ政府の“アジア回帰”から切り離しては理解できない。いわゆる“リバランシング”というのは、実際は、アメリカ覇権の野望に沿うような形で、中国の成長を支配する為の青写真だ。これをいかにして実現するかについては幾つか流派があるが、大雑把に言って二派にわけられる。“龍殺し派”と“パンダ愛好派”だ。龍殺し派は、封じ込め戦略を好み、パンダ愛好派は連携を好んでいる。現状、政策の最終形態はまだ決まっていないが、南シナ海尖閣諸島での緊張からして、計画が大いに軍事力に依存することは明らかだ。

中国を支配することが、ウクライナでの騒動と一体どのような関係があるのだろう?

全てだ。アメリカ政府は、ロシアを、アメリカの地域支配計画にとって、益々増大する脅威と見なしている。問題は、石油とガス・パイプライン網を、中央アジアから、ヨーロッパへと拡張するにつれ、ロシアが益々強くなりつつあることだ。それで、ヨーロッパと経済的に統合した強いロシアは、アメリカ覇権にとっての脅威なので、アメリカ政府は、ウクライナを、ロシア攻撃の為の拠点として利用することに決めたのだ。中央アジアにおけるアメリカの存在や、重要なエネルギー資源を支配するアメリカの計画に挑戦できない弱いロシアをアメリカ政府は望んでいるのだ。

現在、ロシアは、西欧と中欧天然ガスの約30パーセントを提供しており、その60パーセントはウクライナを経由する。ヨーロッパの人々も企業も、家庭暖房や、機械稼働の上で、ロシアのガスに依存している。EUとロシアの間の貿易関係は、買い手、売り手双方に有利な互恵的なものだ。EU-ロシアの連携で、アメリカが得るものは皆無で、それが、ロシアが極めて重要な市場にアクセスするのを、アメリカ政府が妨害したがっている理由なのだ。この種の商業妨害工作は、戦争行為だ。

一時、巨大石油企業の代表達は、EUの莫大な天然ガス需要に対応できる代替(パイプライン)システムを建設することで、ロシアと競合できるだろうと考えた。しかし、この計画が失敗し、アメリカは代案を進める事になった。ロシアから対EUガス流の遮断だ。二つの取引相手の間に自ら割り込むことで、アメリカは、将来のエネルギー配給と、二つの大陸の経済成長を支配することを狙っているのだ。

オバマ株式会社がでくわす問題は、EUの人々に、自宅暖房の為に、2014年に支払った金額の倍を、2015年に支払うことが、実際に彼らの利益になると説得することであり、アメリカの計画が成功するには、それこそが再生へのありかたなのだ。この離れ業を実現する為、マスコミが、彼が卑劣な侵略者で、ヨーロッパの安全保障に対する脅威だと非難できるよう、プーチンを対決へと誘い込むためのあらゆる努力をアメリカは行っている。プーチンを悪魔化して描けば、ロシアからEUへのガスの流れを止める為の必要な正当化ができ、これにより、ロシア経済を更に弱体化させ、西欧とのロシア周辺地域に、NATOが前進作戦基地を設置する新たな機会が得られるのだ。

オバマにとっては、人々が高いガス価格で金をむしられようが、寒さで凍死しようがどうでも良いのだ。重要なのは、次世紀に世界で最も有望で、繁栄する市場への“回帰”だ。ガス収入を大幅に削減させて、ロシアを潰し、ロシアが自国や、その権益を守る能力を弱体化させることが重要なのだ。世界覇権と世界征服こそが重要なのだ。それこそが一番重要だ。誰もがこのことを知っている。全体像から切り離せるかのように、ウクライナの日々の出来事を追いかけるのは馬鹿げている。これは全て同じ異常な戦略の一環だ。元アメリカ国家安全保障顧問ズビグニュー・ブレジンスキーが、アメリカ政府に関する限り、ヨーロッパと、アジア向けに、別々の政策を持っても意味がないことについて説明しているフォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)中の記事抜粋は下記の通りだ。

“ユーラシアは、今やきわめて重大な地政学的チェス盤として機能しているので、ヨーロッパに対しては、ある政策、そしてアジアには別の政策を作るというのでは、もはや十分とは言えない。ユーラシア大陸における権力の分布でおきることは、アメリカの世界的優位性と歴史的遺産にとって、決定的に重要となろう。” (“アジアにおける戦争の危機”英語原文 、World Socialist Web Site)

全て、アジア回帰と帝国の将来の問題なのだ。それが、CIAとアメリ国務省が、ウクライナ大統領ビクトル・ヤヌコビッチを打倒する為のクーデターを画策し、彼をオバマの命令を実行するアメリカ傀儡に置き換えた理由だ。詐欺師のアルセニー・ヤツェニューク首相が、“対テロキエフ暫定軍事政権に反対する、東ウクライナの非武装活動家弾圧を二度命じたのは、これが理由だ。オバマ政権が、現在の危機への平和な解決策を見いだす為の、プーチンとの建設的対話をすることを避けている理由はこれだ。オバマが、クレムリンを長引く内戦に引きずり込み、ロシアを弱体化させ、プーチンの信用を損ない、世論をアメリカとNATO側支持へと変えたがっているためだ。明らかに、それが実現する予定の政策方針を、アメリカ政府が変える理由など有り得ようか? 決して変えるはずがない。下記にantiwar.comの記事の抜粋をあげておく。

“モスクワからの報道によれば、プーチン大統領オバマ大統領とのあらゆる対話を“停止し”、現在の脅しと敵意という環境の下で、再度アメリカと話すことに“興味はない”と語っている。

プーチンオバマは、ウクライナに関し、電話で定期的に、3月と4月始めに話してきたが、プーチンは、4月14日以来、彼とは直接話しておらず、クレムリンは、これ以上の交渉をする必要はないと思うと語っている。”(“経済制裁の脅しの中、プーチンはホワイト・ハウスとの交渉を中止”antiwar.com)

オバマに話しても得るものは皆無だ。プーチンは、オバマが何を望んでいるかを既に理解している。オバマは戦争をしたがっているのだ。それが国務省とCIAがウクライナ政府を打倒した理由だ。これがクーデター前日に、ジョン・ブレナンCIA長官がキエフに出現し、ヤツェニューク大統領が、東部の親ロシア派抗議行動参加者に対する最初の弾圧を命じた理由だ。ヤツェニュークが、東部の親ロシア派抗議行動参加者に対して、二度目の弾圧を始めるわずか数時間前に、ジョー・バイデン副大統領がキエフに出現したのはそれが理由だ。ヤツェニュークが、親ロシア派活動家達に対する攻撃を準備して、東部の都市スラビャンスクを包囲したのは、それが理由だ。アメリカ政府が、武力紛争こそ、アメリカのより大きな権益に役立つと考えているからだ。このような連中と対話しても無意味で、それがプーチンが対話の試みを止めた理由なのだ。

現在、オバマ政権は、次の対ロシア経済制裁策を推進しようとしているが、EU加盟諸国は消極的だ。RTによればこうだ。

“現時点では、ロシアに対してどのような経済的措置をとることなら受け入れられるか、あるいは、それが必要であるかどうかについてさえ、EU加盟諸国の間で合意はない。”とあるヨーロッバ外交筋はイタル・タスに語った。

匿名を条件に話してくれた外交官は、ウクライナのあからさまな軍事侵略、あるいは、ウクライナへのロシア秘密軍駐留の確かな証拠さえあれば、EUの姿勢を経済制裁に転換できるという。これまでのところ、キエフアメリカ政府がウクライナにおけるロシア人工作員の関与だとして公表したあらゆる証拠は、説得的でなかったり、ただのでっちあげだったりだ。” (“アメリカは、EU同盟諸国に対ロシア経済制裁をさせることに失敗している”、RT)

またもや、アメリカ政府は、その目的を実現するためには、ロシア軍を紛争に引きずり込む必要がありそうに見えるのだ。

日曜日、RIAノーボスチは、ウクライナ東部の都市スラビャンスク周辺での大規模軍事増強を示す衛星写真を公表した。ロシア・トゥデイの報道によるとこうだ。

“160輌の戦車、230輌の装甲兵員輸送車や弾道ミサイル防衛装置、少なくとも150門の砲や“グラド”や“スメルチ”を含む多連装ロケット発射装置が地域に配備されている。総計15,000人の軍隊がスラビャンスク近くに配備されていると彼は語っている…。

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣は、ウクライナ軍の大規模増強や、作戦演習や、地域へのNATO諸国軍の追加配備によって、ロシア自ら軍事演習で対応することを“強いた”…..もしキエフが抗議行動参加者に対する弾圧を、彼等に対して重火器を使用してエスカレートさせることを選択すれば、ロシアは、流血を止める為に軍を使用する権利を留保すると述べた。” (“戦車、装甲兵員輸送車、15,000人の軍隊: スラビャンスク近くでのキエフ軍増強を示す衛星写真”、RT)

プーチン大統領は、もしロシア人がウクライナで殺害されれば応酬すると繰り返し述べている。これは越えてはならない一線だ。ロシア外務大臣セルゲイ・ラブロフは同じメッセージを、先週RTのソフィー・シュワルナゼとのインタビューで繰り返した。いつもは穏やかなラブロフが、ヤツェニュークによる、ウクライナ民間人に対する“犯罪人”としての攻撃を非難し“ロシア国民に対する攻撃は、ロシア連邦に対する攻撃だ”と警告した。

この発言の後、民間人に対する暴力行為を抑止する為にロシア政府が介入準備をしている可能性を示すウクライナ国境近くのロシア軍の動きに関する不穏な報道がある。ロシアのイタル・タスによれば“セルゲイ・ショイグ国防大臣は“今日の時点で、ウクライナ国境地域で、戦術大隊群の演習が始まった。”航空部隊も、国境近くでの戦闘をシミュレーションする為、演習行動する”と語っている。

これでお分かりだろう。オバマの挑発が、プーチンを結局争いに巻き込む可能性だ高そうだ。しかし、はたして物事はオバマが期待する方向に展開するだろうか? プーチンは、アメリカ政府のシナリオに沿って、軍隊を東部に残し、アメリカが資金提供している準軍事ゲリラや、ネオナチ連中に狙い撃ちにされることになるのか、それとも、キエフを急襲して暫定軍事政権を排除し、紛争を鎮める為に国際和平監視部隊を招請し、安全の為、国境を越えて撤退する等の秘策を何か持っているのだろうか?

戦略が何であれ、それが実行されるまで、長く待つようなことはあるまい。もしヤツェニュークの軍隊がスラヴャンスクを攻撃すれば、プーチンは戦車を送り込むこととなり、全く別の事態となるだろう。

マイク・ホイットニーはワシントン州在住。“Hopeless: バラク・オバマと幻想の政治”(AK Press)の寄稿者。HopelessにはKindle版もある。fergiewhitney@msn.comで彼に連絡できる。

記事原文のurl:www.counterpunch.org/2014/04/28/why-is-putin-in-washingtons-crosshairs/