本澤二郎の「日本の風景」(1391)

厚労省の腐敗>
 役人の腐敗は、中国やロシアだけの深刻課題ではない。日本の霞が関も例外ではないらしい。「財界にっぽん」10月号に掲載した徳洲会選挙違反事件記事の波紋が広がっていることが、それを物語っている。自宅にも連絡がはいった。監督官庁である厚労省批判である。官僚特権による事件のもみ消しは、日常茶飯事といっていいが、67の大病院を経営する徳洲会の不正疑惑を、既に多くの国民が知るところとなった。それでも役人は沈黙している。許されるのか。


 かつて「霞が関の犯罪」(リベルタ出版)を書いたが、これも厚労省の大がかりな腐敗を告発する内容だった。彼らは右翼にも手をまわして、本の出版を妨害してきた。現に右翼と日本記者クラブで対決したものだ。本は無事に出版されたが、直後に自家用車のタイヤに穴を開けられた。自宅窓ガラスがエアガンで破損させられた。
 正義を貫くことは、なかなか容易ではない。役人は自己保身のために右翼暴力団を悪用するという事実を、この場面で初めて体験させられた。
徳洲会事件に蓋>
 徳洲会事件についても「右翼暴力団が動きだした」との情報を寄せてきた事情通もいる。お上(かみ)が手をまわしていなければ幸いである。
 東電福島原発事件に捜査のメスを入れさせない日本政府と議会・新聞テレビである。放射能汚染に蓋を懸けているのだが、この徳洲会事件にも捜査権を発動させない。悪辣すぎる。政治・行政不信を強めさせている。
 本来、新聞テレビがこぞって報道する事案である。議会では野党が鋭く追及する場面である。1000兆円借金大国が、医療優遇税制をしている余裕などない。内部告発者筋は「使途不明金は100億円」とも指摘しているのだから。
 国民の健康を確保するための病院が、職員を特定の選挙に動員していたという、まぎれもない違反事件を、捜査当局も監督責任のある役所も沈黙して、事実上蓋をしている?これが法治国家なのか。
 法の下の平等を約束している日本国憲法に、当局が違反していることになる。昨日、最高裁は遺産相続について、相続する子供に差別を設けている現行民法違憲であるとの決定を下した。だが、一方で目の前の大がかりな腐敗を放置している。これに事情通は怒り、筆者にまで抗議してくる始末である。
<病院私物化を容認>
 「厚労省の医療指導課は、徳洲会の腐敗を知りながら、処分さえしようとしていない」といって激しい怒りをぶつけてきた。理解できるだけに、こうしてペンを握っている。
 大学で法律をかじった人間であれば、よくわかる事柄である。人間の命を預かる病院に対して、国は税制上、特別待遇を与えている。べら棒にもうかる様にしている。医師の生活苦を聞いたことが無い。恵まれている。しかし、そうして患者から得た大金を一部経営陣が私物化してきた。
 それが内部告発で判明した。それに当局が手をつけない。おかしいではないか。不公平・差別に対して民衆は怒り出す。それでもいいのか。
<院長は名前だけ>
 事情通によると、67の病院長に管理責任はないのだという。病院長は患者と保険から入る膨大な治療費の詳細を知らない、というのだ。むろん、選挙違反事件のラチ外に置かれている。
 「院長は名ばかり」といって当事者は嘆いている、と事情通は具体的な病院名と院長の名前を上げて、腐敗の事実を指摘している。東洋経済が報道した内部告発を、さらにはっきりと裏付けている。
 人間の心を持った病院関係者は、徳洲会からの離脱を真剣に考えているという。それでも当局は蓋をして動かない。彼らは国民に奉仕しない、憲法が約束している罷免対象役人なのだ。法曹界に人物はいないのか。
<事務長が選挙対策
 事情通は、徳洲会の選挙違反事件は全ての病院の、医師ではない事務長とその周辺で処理している、とも打ち明ける。
 選挙違反資金は、患者と患者加入の保険から支払われている、そこからのネコババである。その手口にも興味がある。現在の健康保険基金は危機的な状況下にある。医療費は財政難の下で引き下げられる。反対に患者の負担は増えて行く。
 そうした中で、徳洲会の腐敗は見過ごされる。これはどう考えてもおかしい。事情通は「徳洲会ブラック企業だ」と断じた。「真面目な医師や職員は泣いている」とも付け加えた。

 腐敗・不条理に世界も混迷を深めている。9月5日からロシアのサンクトペテルブルグでG20サミットが開催される。ブッシュのイラク・アフガン戦争を非難して大統領になり、ノーベル平和賞まで手にしたオバマが、目下、シリア問題でブッシュの役回りをさせられている。
 歴史の皮肉だが、ワシントンを背後で突き動かしている1%の悪魔性にひたすら驚愕するばかりだ。シリア戦争に反対するプーチンは「化学兵器は反政府側の自作自演」と叫んでいる。
 フランスでは、ドイツ大統領がナチスの蛮行現場を訪れてフランス大統領と手を握った。ドイツ検察は、未だに逃亡するナチス犯罪に捜査権を発動している。日本首相は、悪しき皇国史観へのこだわりで、中国や韓国のリーダーにソッポを向かれている。
2013年9月5日8時30分記