本澤二郎の「日本の風景」(1583)

ナショナリストと日本衰弱死>
 日本の国家主義ナショナリズムは、明治に確立したものであろう。富国強兵・殖産興業である。この時期に財閥も誕生した。安倍路線はこれにしがみついている。アベノミクスという円札刷りで、武器輸出・原発輸出、そのための集団的自衛権の行使・派兵へと突き進むという。安倍の言う「強い国」だ。19世紀・20世紀の価値観である。暴利に励む財閥の意志でもある。地球を戦場にする論理だから、周辺国は身構えることになる。いいことは何もない。愚者の利権政治である。




<非を認めない自己主張>
 ナショナリストは、自己主張に長けている。「国益」という衣で、あたかもそれが正当であるかのように装うのだ。始末の悪い特殊な観念の持ち主でもある。
 安倍と野党の国会での論戦を少しだけ覗けば、すぐに理解できるだろう。普段、自分で考えていることを口にするだけだ。持論・自説で押し切ってしまう。相手の主張に一切耳を貸さない。
 それが民意に反していようが、国際社会の常識に反していようが、本人は全く意に介さない。史実に忠実ではない。信じる皇国史観で押し切る。最悪の場面になると、あっさりと「河野談話を見直す考えはない」と口先で述べる。むろん、本心ではない。
 側近はよく分かっているから、側面から「見直すこともある」と反撃することを忘れない。靖国問題になると、彼の信念は強い。彼にとって、それは唯一の信仰だからである。戦争神社こそが「強い日本」の復活を意味するからであろう。ナショナリストと神社信仰は一体である。
<寛容ゼロ>
 ナショナリストの致命的欠陥は、相手に対して寛容でないという点である。靖国参拝がどういうことか、それによる影響はどうなのか。相手の抗議には「説明すれば分かってくれる」と平然と押し切る。
 隣国からの抗議に対して、自分はいつでも扉を開いているというばかりだ。相手にとって、こうした対応ほど屈辱的なのだが、そんなことは知ったことではない。それが安倍のナショナリスト方式である。
 寛容は外交の基本である。そうでないと真の友好・友情も生まれない。利害でしか行動しないプーチンとの関係は、まさに利害・利権が先行している。「シベリア開発を日本の技術と資金で」がプーチンの本心である。
 安倍にとっては、そうすれば北方領土が返還される、と国民に感じさせさえすればいい。実際に4島返還されるかどうかは問題ではない。むろん、4島返還はないだろう。
 同じく拉致被害者に対しても、真実の解決は二の次である。外交的に利用しているにすぎない。そのための応援資金を被害者にこっそりと配り、それでもって巧妙に踊らせて、北朝鮮を利用しているにすぎない。
 本気であれば、自ら平壌に乗り込んで、直談判すればいい。しかし、口先だけで行動しない。寛容さゼロは国民に対しても、である。
<あらゆる手段で対抗・挑発>
 対立する関係者に対しては、あらゆる手段で対抗する。挑発もする。こうした対応をホワイトハウスは嘆いている。
 中国と韓国との対立は、アメリカの東アジアの戦略をぶち壊す危険性があるからである。ロシアとの新たな冷戦構造、同時にイスラエルの扱い、イランの核問題など、世界の警察官の仕事は相変わらず多い。
 そんな中での東アジアの混乱は、もはやアメリカとて手に負えなくなる。東京のナショナリスト政権は、潜在的な世界最大の脅威なのである。それは「核武装する日本」が現実味を帯びてきているからだ。そのための集団的自衛権の行使が、その1歩なのである。
 なんとしても、ここに風穴を開けたい。其れに向かってナベツネ配下の極右御用学者に「蟻の一穴」を求めている。
<妥協知らずの国粋主義者
 寛容知らずの安倍晋三は妥協するという観念がないか、著しく乏しい。靖国参拝は、中国や韓国の反対どころか、アメリカの説得さえも振り切っての行動だった。
 ワシントンが衝撃を受けて反発すると、それに側近が次々と反撃した。ホワイトハウスは戦後の日本ナショナリストに初めて遭遇して、目下、戸惑いを見せている。第二次世界大戦を「自衛のための戦争だった」と信じ込む日本ナショナリストの存在に、世界は改めて驚愕している。

 筆者も東郷元外交官が雑誌「月刊日本」で指摘するまで、これほどひどいとは思ってもみなかった。すなわち安倍は戦後体制を否定していたのだ。中曽根康弘どころか、その上をゆく、正に国粋主義者そのものだった。それゆえの靖国参拝集団的自衛権行使、憲法改悪政策なのだった。
 安倍の靖国参拝小泉純一郎のそれとは違うのかもしれない。安倍を神道過激派と称する理由である。祝詞(のりと)とお祓いという、神がかりの祭政一致の日本へと追い込む作戦なのか。神棚信仰・神社祭礼に狂奔する愚民相手ならば、それも可能と思っているのだろうか。
<民意反映せず、民意操作>
 国家主義は、民意を軽視する。国家の危機を利用して、いつでも国民を危機にさらす覚悟をもっている。国民が反発すれば、危機を煽ればいい。新聞テレビを配下にすることで、民意を操作するのである。
 尖閣問題は、日本人の精神を狂わせる格好の材料なのである。彼にとって、従って尖閣に火を付けた石原慎太郎は、小沢一郎とは違う。徳洲会事件にからむ石原のピンチを救った理由だと、旧安倍派のベテラン秘書は分析している。
 円刷りで株屋を踊らせるアベノミクスも8%消費税によって、ギャンブル経済でしかないことが露呈する。不況の深化である。どうするか?危うい事件・事故の多発が表面化するのかもしれない。
<過去を引きずる厄介者の黒幕は財閥>
 「自分が憲法改正をする」「集団的自衛権行使を閣議決定する」「安全原発を海外に売る」「武器輸出3原則を見直す閣議決定をする」という安倍個人の思いを実現しようとして、そのために同じナショナリストらで編成した政権であることが、いまやはっきりとしている。
 過去を正当化する国粋主義者の日本政府を強力に支援する財閥、それゆえに新聞テレビからリベラリストを排除、極右報道にNHKを先頭に走らせている今の日本なのである。安倍支援の黒幕に目を向けよ、である。

 財閥にメスを入れないと、日本は本当に衰弱死するかもしれない。
2014年3月31日8時10分記