本澤二郎の「日本の風景」(1139)

原発は恐るべし>
 集合住宅の住人になって8年になろうか。管理組合の理事会に首を突っ込んだついでに、住宅周辺の放射線を測定することにした。そんなおり、ジムで知り合った物知り博士のような人物が、あれこれと内情を教えてくれるのに、まず驚かされた。「福島に原発作業員として東芝1300人、日立1000人」と断言する。実に原発について詳しいのだ。「放射線のピークは昨年の夏から秋にかけてだ」「いま測定しても?」というのである。「これからは内部被曝だ」とも断固主張する。確かに理屈だ。理解出来るのだが、線量計がどんなものか、それだけでも知る価値があると考える筆者だ。


原子力ムラは悪魔集団>
 彼によると、原発問題に取り組んでいるグループは3つ存在している。反原発派・慎重派・推進派という。いわゆる3・11以後に学んだ原子力ムラが推進派なのだ。ここの中枢は通商産業省だ。電力会社・大学・マスコミ・政治家が周囲を取り巻く。それこそ巨大な利権構造になっている。
 この奥深く中曽根康弘や読売メディアが控えている。政治家・ジャーナリズム失格という烙印を押すしかないだろう。
 不思議なことは、史上空前の3・11を目の前にしながら、いまだ1人として反省・謝罪する人物が、この悪魔のようなムラから現れないことである。「生活のため」が理由とされるが、こうした現状が原発の恐ろしさを物語っている。
 悪魔の集団といえる。「死の商人」と変わりない。
<区役所の線量計
 結果は、指摘された通りだった。0・09とか多い所で0・1である。NHK解説委員やNHKが起用した東大教授のいう「直ちに健康被害に影響するものではない」との国民愚弄発言を想起する。
 ただ、判明したことは、高い塀や建物のある周辺に高い数値が出ることがわかった。風で塵や埃と一緒に運ばれるものなのだ。携帯電話の大きさの線量計が、果たしてどれほど正確な測定器なのか、素人に判断はできない。
 「品川区の子どもたちを守る会にアクセスすると、これまでのデータがわかる」とも、くだんの専門家が教えてくれた。それによると、東京都のホットスポット江東区のゴミ捨て場と大田区の城南島(ゴミ焼却場)が、相当高い。そこからの風向き・風力によって地上にまいあがって、それを人間が吸い込むと内部被曝になる。
 しかも、区役所提供の線量計プルトニウムストロンチウムなどの猛毒の測定は出来ないという代物だ。そして何よりも内部被曝の測定を市民レベルで出来なくさせている、というのも驚きだ。原子力ムラの網の細やかな布石に圧倒される。ここは政権交代しか打つ手はない。
<恐怖の内部被曝
 内部被曝の恐怖について、日本記者クラブでのアメリカやウクライナなどスリーマイルやチェルノブイリの専門家の話から、それなりに承知している。
 3・11直後に菅直人が福島の現地に行った勇気を評価した筆者だが、かの専門家の説明では「メルトダウン・水素爆発の前だから、被曝していない」という。ただ、彼が「官邸の核シェルターに逃げた」という指摘は初耳だった。
 現役の政治記者時代、国会議事堂と官邸の間に地下トンネル工事をしていたことは承知しているが、官邸の地下に核シェルターが存在していることを知らなかった。皇居にもあるのだろうか?国会記者会館と議事堂は地下トンネルで結ばれてはいたので、20年ほどいつもそこを利用した。
<データの秘匿>
 物知り博士によると、政府は重要かつ貴重なデータを所持しているが、それらを秘匿していると決めつける。筆者も理解出来る。
 確か広島と長崎の原爆投下によって、さしもの天皇国家主義も崩壊するのだが、米占領軍は広島と長崎のデータを全て秘匿した。その多くがワシントンにもたらされた。いま同じことを東京とワシントンが連携して、重大かつ深刻なデータを秘匿しているのだろう。
 広島や長崎の被爆者やその周辺の人たちの「我々はもっとひどかった。それでも生きている」というコメントを聞いたことがある。低線量の被曝か被爆による即死なのか、当事者個人の免疫力による差もあろう。
 今回の事件は、低線量の内部被曝に問題があるのだから、スリーマイルやチェルノブイリの教訓から、近未来の被曝者被害を想定できる。素人は放射線の種類も不明だ。「プルトニウムは肺に、ストロンチウムは骨、ヨウ素甲状腺に付着する」といわれても、なかなかピンとこない。しかし、事は深刻この上ない。
 21世紀の地球では、情報公開が常識な流れである。野田内閣は秘密保全法を強行しようと狙っている。この1点だけでも、近代政府を担当する資格など無い。市民は情報公開法で悪しき政府の扉を開けなければ、それこそ生命と財産を奪われかねない。こそこそと逃げ回るネズミなどではないのだから。
東芝の説明責任>
 筆者はいまだ水素爆発と核爆発の違いを理解できていない。1,2号機の水素爆発と東芝製造の3号機の核爆発の区別がつかない。しかも、日本テレビ系の福島の地方テレビ局が、3号機の核爆発を撮影、これがYOU TUBUで世界に発信されて久しい。
 3号機が核爆発という欧米専門家の分析に間違いがないのだが、それでも日本の新聞テレビは、現在も水素爆発と嘘の報道をしている。このことが何とも不思議でならない。しかも、そのことに抗議の声も聞かない。

 安全神話を垂れ流してきた原子力ムラの連中である。原発の爆発など想定していない面々だ。収束するための専門家もいない。東電にいるわけもない。1年半が経とうというのに、適切な収束作業さえも明確でない。わからないのだ。悪しき核科学の限界を露呈している。
 メルトダウンの時点で、横須賀の米空母が逃亡したことを想起すれば、ワシントンにも打つ手はない。

 しかし、3号機の核爆発の説明責任は政府・東電、そして原子炉製造会社にある。このことさえもまだ果たしていない。議会でも、マスコミも追及していない。不思議千万だ。
江東区大田区ホットスポット
 昨夜、たった一人の孫娘とゲームに興じた。「勉強などするな」と厳命してあるため、本を読んでいる姿を見たことが無い。其の分、快活な子供である。隅田川沿いの小学6年生だ。最近、NHKの教育番組で「スカイツリー プールサイドに 落ちる雨」という俳句を披歴した。天に登るスカイツリーは、さしずめ科学の粋を代表しているのだが、そこへと放射能の雨が降り注いでいると解釈可能である。3・11以後の日本を象徴する俳句である。

 ゲームは算術を必要とする。筆者よりも数字に強い子だ。これなら店のレジが出来ると思ってしまったのだが、さて江東区放射性物質を吸い込まされていないだろうか。他方、我が家は城南島からのそれを吸いこんで生きねばならないのだろうか。年配者はいいが、子供の将来が甲状腺がん人生だとすると、これは悲劇である。
 こんな国にした原子力ムラの政治・道義的責任は重い。万死に値するという言葉は、原子力ムラの悪魔のために用意されたものか。首相官邸包囲デモの主婦らの思いを共有したい。デモをなんとしても成功させたい。無神論者だが、ここは祈りたい気分だ。
2012年8月26日10時02分記