本澤二郎の「日本の風景」(1270)

<臭い日揮社員殺害事件>
 おかしい。どう考えても不可解な事件である。アルジェリアで働いていた日本人殺害事件のことである。イラク・アフガン戦争に加担した日本は、以来、イスラム過激派に嫌われてしまっている。日本人人質作戦が表面化してもおかしくはない。だが、なぜアルジェリアで多くの犠牲者を出したのか。天然ガスプラント建設現場の外国人労働者、そこの日本人を標的にしたのか。即座に噴き上がる自衛隊法改正と防衛費増、その主役は改憲軍拡のドラを叩く安倍内閣?点と点を結び付けてゆくと、やはり諜報機関の秘密工作の臭いと、その狙いが巧妙な日本の世論操作であることも見えてくる?


<3重の網を難なく>
 2013年2月1日、アルジェリア政府は各国マスコミを現場に案内した。そこで確認できた2点に注目したい。
 一つは、砂漠の要塞のようなプラント建設現場には、実に3重の防壁が出来ていた。軍そして警察、さらに民間警備である。こんなに凄い防御壁というのも珍しい。ネズミ1匹通過できない。
 小説の世界では、砂漠の美女が美酒を大量に持ち込んで、兵士と警察官と警備担当者を眠らせる。そうして難なく目的地に到達する、ということなのだろうが、今回、こんな芸当をするはずもないし、出来ない相談だ。
 アルジェリア政府・軍・警察・警備員をコントロールする大きな力が作用した秘密工作事件であろう。お隣のマリに軍事支援を始めたフランスは、攻撃の大義を手にできる。同じくニジェールに押しかけるという米軍も?見方次第では、アフリカにおける中国とのエネルギー利権抗争の一環ともとれよう。
 昨今の中国のアフリカ資源確保は、日本のマスコミでもよく報道している。

 あわせて、日本の改憲軍拡の潮流に棹さすという1石3鳥の効果を狙ったものではないだろうか。改憲軍拡を狙うワシントンのネオコンと安倍である。うがち過ぎではあるまい。安倍は人質事件のさい、必死で「人命第一」を叫んで、国民向けにアリバイ工作をしていたのだが?おわかりか。
 自民党石破幹事長は、自衛隊法改正という名の改悪論を、手際良くぶち上げた。これは臭い。怪しいのだ。武器弾薬で人命が守れる、という理屈など今日通用しない。この世は因果応報である。悪いことをしなければ殺されることはないに等しい。
<プラントに攻撃なし>
 「自国のエネルギーを侵略・植民地資本に奪われてなるものか」との思いが過激派の念頭に強い。彼らが建設する、そんなプラント建設など無用である。そう信じているはずだろうから、爆弾の数発をぶち込んで破壊するだろう。
 どっこい、プラントは無傷だ。アルジェリア軍の攻撃で、施設が少し黒ずんだ程度である。過激派は大事に扱った。これが二つ目に判明した事実である。
 3重の防御陣地を無傷のままで潜入した犯人らは、アルジェリア人に目もくれず、もっぱら外国人の人質にこだわった。彼らには、日本人にも特別の指令が出ていたことが判明している。
 それにしてもなぜ、この時期・この日だったのか。日本から日揮最高顧問、英BPからも重役が来て重要会議が開かれる日だった。犯行をその日に特定し、彼らを殺害した。これを偶然と言えるだろうか。これもNOである。
 内部情報を手にしていた犯人らだった。あまりにも出来過ぎているではないか。
<日本人人質にこだわった犯人>
 生存者の証言から「日本人はどこだ」といった犯人の叫び声が判明している。日本人狙いでもあったのだ。日揮社員が多く働いていることを確認していた犯行だったのだ。
 一般的に日本人人質は、法外な金を手に入れることが出来ると見られている。それが理由だったのか?それだけではあるまい。
 事情通は、この事件直後に「米CIAと英MI6とフランスの諜報機関の合作だ」と語っていたが、現時点でも確かにそう読めるのである。イスラエルモサドはどうなのだろうか。
 現地政府を手玉に取れなければ、これだけの大事は出来ない事件だった。徹底した情報管理にマスコミは手も足も出なかった。しかし、疑惑は強まるばかりだろう。
<噴き上がった自衛隊法改正>
 人命救済が最優先の場面で、右翼メディアや保守派政治家から「自衛隊活用」が叫ばれ、現行では動けない、という専門家を交えてのキャンペーンが茶の間のテレビを占拠した。
 最強の軍事大国のアメリカでも、テロに対して無力に等しい。9・11後のイラク・アフガン戦争でも勝利することが出来なかった。どうして日本が出来るであろうか。わかりきっているだろう。
改憲軍拡への環境整備>
 狙いはいうまでもない。改憲軍拡に向けた地ならしである。筆者の目は節穴ではない。事情通のアドバイスを受けて、俄然、頭が冴えてきたようなのだ。
 安倍は自衛隊国防軍に格上げ、戦争の出来る日本にしたい。それが美しい日本だと言い張る。それには過去についての反省や謝罪は不要である。その逆で過去を正当化させたい。安倍は皇国史観論に立っている。
 そのために参院選を勝利することが、何よりも先決なのである。これほど危険な政治家?は、戦後初めてである。中曽根でさえも、ここまでは踏み込めなかった。もちろん、岸も、である。
 正に極右政権なのだが、この点についての日本人とアジア人の認識は甘い。
 アルジェリア日揮・官邸は結びついている。改憲政権を誕生させたワシントンのネオコン・CIAの野望は、半年後の日本改造狙いとみたい。日揮社員殺害事件は、見事にその役割を果たした。メディアは早速、都合のよい調査結果を公表して、自衛隊法改正世論を作り上げてしまった。
<怒れ!日揮社員>
 日本政府はアリバイづくりに政府専用機を現地に飛ばした。不運な日揮社員の死体と生存者を東京に運んだ。後ろめたい裏返しの手厚いもてなしなのか、それも工作を完結させるための一環だとみえそうだ。
 多くの国民は見事罠にはまった?違うだろうか。
 正直、日揮の亡くなった社員が哀れでならない。老いた母親や兄弟の悲しみの映像に誰しもが涙した。しかし、真実は20年、30年後にワシントンの公文書館でしか判明しないものか。それとも、その前にウィキリークスにすっぱ抜かれるか?
 日揮社員に怒れ、といいたい。ドンは知っている。
<ドンと最高顧問の関係>
 事情通は「日揮のドンと殺された最高顧問の間に何があったのか」と疑惑のボールを投げてきた。二人の関係が一体であれば、後者が殺害されることはなかった、というのである。

 年に数回しか現地を訪れることがない日揮とBPの大幹部、犯行は建設企業幹部の現地入りに合わせて決行したものだ。それこそ壮大な仕掛けの中で行われた悪辣な事件だった。
 この秘密工作に沈黙する議会・政府・マスコミの日本である。
2013年2月3日7時35分記