本澤二郎の「日本の風景」(1253)

中韓の日本商品不買運動
 野田内閣の尖閣国有化宣言に端を発して、中国全土で大がかりな日本商品ボイコット運動が表面化した。次いで韓国では、中小の小売店の団体(600万人)が竹島領有権問題に絡めて、同じく日本商品を「買わない」「売らない」運動が展開されてきている。尖閣問題の火付け役は、極右の石原慎太郎とその背後にワシントンの極右シンクタンクの存在が判明している。この問題は深刻極まりないのだが、永田町・霞が関・大手町も軽視しているようだ。議会での野党追及も聞かない。


 これらは、単なる経済問題でないことはいうまでもない。日本政府と日本人の心根に厳しい反省を求めているのだが、そうした認識が言論界にも見えていない。日本がアジアで孤立していることにさえも気付いていない。
 反動的にワシントンとの同盟という名の服従政策に突き進んでいる。安倍内閣のTPPへののめり込みと自衛隊の米軍傘下入りという、文字通りの日本属国化を印象付けている。
<甘く見るな・自立した中韓
 どう取り繕ってみても、アメリカの時代は過ぎ去ろうとしている。戦前の大英帝国がそうだったように、帝国の繁栄には限界がある。アメリカ1国で国際関係や紛争を処理できない。
 近年のイラク戦争でも、アフガン戦争も、他国軍を巻き込んでも米軍は勝利を手にすることが出来なかった。イスラエルパレスチナの和平問題は言うに及ばず、イラン問題にも解決の糸口さえも。ワシントン単独での力では無理である。
 アメリカが国内で新たなガスを見つけたと宣伝しているが、それでもって1極体制の復活を実現することは困難であろう。内政の課題山積に四苦八苦している。

 東アジアは大きく変動した。中国やインドの台頭である。とりわけ前者のそれは著しい。ワシントンが最も重視するパートナーである。「日米で北京を封じ込める」という日米極右の論理など通用するはずもない。
 反日感情が覆い尽くす韓国は、大国化した中国に接近して久しい。同時に北朝鮮との関係を重視する分、中国傾斜も著しい。朴新大統領の中国へのあこがれも、より双方の深まりを今後、予想させる。
 かつてソ連との連携に力を入れてきた中国は、当の昔に自立する自信をみなぎらせている。その上で、大国・ロシアとの連携を深めている。日米の経済力を取り込んで成長してきた韓国も独り立ちしている。
 中韓共に、日本侵略の甚大な被害を受けたことの精神的な苦悩を共有している。過去と真正面から向き合おうとしない極右の日本政府が誕生すると、比例して双方の関係は深まってゆくものだ。
<侵略史と歴史認識・領有権>
 今がまさにそうである。昨年の9・18反日デモは、韓国の人々にも力強いメッセージを与えた。過去と向き合えない極右の日本政府に対して、中韓連携による対抗意識が芽生えてきている。日本にとって最悪のシナリオである。アジアから孤立する日本だ。
 韓国の反日感情反米感情は、勢い北京との深まりを意味する。そこから北の暴走を抑制できる。一石二鳥なのだ。

 隣国の共通する歴史認識と領有権問題は、ともに日本侵略史という悲惨な過去と関係している。戦後処理に問題があった。これにはワシントンが責任を負っている。
 ぶっちゃけて言うと、尖閣竹島・北方4島も、いうなればアメリカの置き土産である。ワシントンの日本属国化の布石なのである。ワシントンのずる賢い日本孤立化政策とも言える。
<日本財閥に槍突きつけた隣国の民衆>
 「ワシントンの占領政策は成功した」と当事者が吹聴している。しかし、善良な日本人や平和国民からすると、全くその逆である。
 米ソの対立関係を悪用しながら、当初の対日政策をクルクルと変えてしまった。最大の悲劇は、いったん日本軍国主義の黒幕である財閥を解体したものの、冷戦構造下、反省もさせないままに、直ちに復活させてしまったことである。
 戦前の財閥は、今日その100倍、1000倍以上の実力を有している。彼らが政界と官界を操作している日本の最強権力体なのである。言論界も彼らの意向を体して世論操作の先頭に立たされている。
 何度でも繰り返すのだが、日本の教科書や新聞テレビなどのマスコミから「財閥」という文字は消えてしまっている。日本共産党は、確か「大企業」と呼んで、実態を隠すことに貢献している。新聞テレビもそうである。
 学者の中には、欧米の学者に見習って「多国籍企業」と呼んでいる。その点で、韓国社会はまともである。財閥が韓国社会を牛耳っている。政界も官界も言論界も財閥が支配している。そのことを人々は皆承知している。
韓国人は、権力の源について公然と批判、監視している。其の分、健全であるが、日本は財閥を誰も知らない。存在しないことにしている。日本の不思議の最たるものである。
 中国の人民と韓国の国民は、ここにきて初めて日本財閥に対して挑戦状をたたきつけている。これは政治的にも画期的なことである。日本財閥は侵略の本尊である。そこに隣国の民衆が槍を突きつけているのだから。
<日米同盟一辺倒は逆効果>
 財閥が政治を動かしている。操っている日本である。資本主義社会では、資本が権力を掌握している。資本・財閥が重要政策を決める。10%消費税は財閥・大手町の意思である。TPPもそうである。自衛隊の海外展開もまた、財閥の意向なのである。民意ではない。
 日米同盟もまた財閥の意思なのだ。財閥は主権者である国民の意思・民意を代表していない。ここに政治不信の根源が生まれる。
 日米同盟はアジアを軽視する。極右政権のもとでは一段とそれが強まることになる。東アジア共同体が開花することはない。
 日本の将来に明るさが見えてこない理由だ。アジア重視路線を打ち出した小沢一郎鳩山由紀夫が政治的に葬られた理由でもある。しかし、リベラルが消えることはない。日本から希望が消えたわけではない。
<ワシントンと北京の連携>
 日本財閥の意向がどうであれ、ワシントンの主流は北京を重視することになる。当り前であろう。近い将来の世界は、ワシントンと北京が世界を動かす原動力になるだろう。
 北京が民意を吸い上げることに成功すれば、中国の時代を想定できるだろう。ワシントンはアジア重視、それも中国重視である。日本財閥の均衡を欠いたワシントン傾斜は、未来を見据えたものではない。
 そんな愚かな日本財閥を監視する制度の構築が、もっとも急務であろう。小沢や鳩山はここに視点を置いてはどうか。まだ諦めるのは早い。リベラルの重大任務だ。
<被害者心理を理解しない極右>
 日本人の致命的な欠点は、被害者の立場・心情を理解できない点にある。それは戦後の歴史教育も災いしている。近現代史に蓋をしてきている。過去を知らない日本人ばかりの日本に問題がある。
 安倍内閣のような極右政権は、隣人の心のひだを理解できない。いまどきの反共主義に、どれほどの価値があろうか。

 大平正芳の寛容を学ぶ必要がある。宇都宮徳馬の平和・軍縮に思いを致すようになれば、隣国の反日感情や日本商品不買運動の心理を理解、解消出来るようになるだろう。諦めるのはまだ早い。
2013年3月22日記