本澤二郎の「日本の風景」(1272)

安倍晋三・屈米派の虚実>
 安倍内閣は、4月12日にTPP交渉参加に向けた日米の事前協議に合意して、新たな不安を列島に撒き散らしている。TPPを推進する財閥とワシントンの意向を、急いで強行処理している。世論の反発を軽視している安倍である。なぜかならば、既に1月から読売のナベツネから開始した、一連の新聞テレビ首脳陣との会食で、協力を要請しているからだろう。これほどの官邸工作も珍しい。屈米派政権のなれの果て、でもある。



 自由主義・リベラルの政治的価値観には、人々への思いやりを重視する。しかし、戦後に否定された国家主義は、国民を犠牲にして国家目的を強行する。ために隣人や隣国と衝突する。それを口実に軍拡政策を推進する。いまどき価値観外交など通用しないのだが。
 21世紀の人類は、差別政策を放棄する人権社会にすることを、暗黙の了解事項にしている。国連は体制の異なる国との連携で成り立っている。国家も人類も皆平等の原則に立っている。他方、国家主義は自己の価値観を優先する。体制の異なる国や人々を警戒する自己礼賛主義である。
 安倍はTPPについて「同じ体制」の経済貿易協定に特段の思いを抱いている。そのために全ての経済ルールが、アメリカの流儀という極端な不合理を受け入れさせられるTPPでもあっても。聖域なき経済ルール・アメリカのためのルール、アメリカのための弱肉強食の論理が貫かれるというのに。
 いずれ日本の誇れる福祉や年金・医療なども破壊されてゆく。差別される医療・医療も金次第という悪しき文化を押し付けられる。被害は農業に限らない。福祉制度も改悪されてゆく。人間の命も金で測定されてゆく。ありとあらゆる場面に、資本・強者のアメリカ論理が貫かれる。壮大なる格差を生じさせる。
<聖域なきTPP>
 経済力は各国とも異なる。そこへと「聖域なき関税撤廃ルール」へと突き進めば、どんな結果が待っているのか、わかりきっているだろう。現実の自由貿易は、それぞれの国の経済力を認めるという前提でなければ、平等ではない。

 ワシントンの意向に屈する属国外交の先が、間もなく見えてくるだろう。日本も第2の韓国やメキシコのようになる。そこでは一部の1%のみが生き残ることになろう。
 安倍の屈米外交を見ていると、彼の祖父の岸信介の対応とそっくりである。岸内閣はワシントンの指令通り60年安保を改定して、ワシントンを喜ばせた。沖縄基地の存続を固定化させた。
 他方で、台湾政府と癒着する価値観外交を踏襲した。北京との対立・対決に突き進んだ。そうして改憲・軍拡政策を推進した、正に戦前の国家主義路線を復活させた。
 学生から市民・労働者を巻き込んだ60年安保騒動は、戦前回帰への反発だった。民意による抵抗運動で岸内閣を打倒したものである。安倍は岸復権に突進しているのである。
 さすがに北海道と沖縄で反発の火の手が挙がっている。これが燎原之火のように全国に広がるかどうか。日本のジャーナリズムの行方とも絡んでいる。地方新聞に影響を与える共同通信の報道も関係する。
 沖縄タイムズなどの地元新聞には、ジャーナリズムが生きているが、それゆえに官邸は、懐柔するための工作を推進しているのだが、まさか沖縄マスコミが金に屈するわけはないだろう。
<TPPは100年の計?>
 安倍に限らないが、政治家や政党は嘘をつく。平然と嘘がつける人種である。与野党を問わないが、政権担当の政党・政治家ほど、その嘘は大きい。民主党の野田内閣はそれゆえに葬られてしまったのだが、しかし10%消費税は生き残ってしまった。
 確か自公政権はかつて「100年は持つ年金制度」を吹聴したものだが、これも大嘘の典型である。既に年金制度は崩壊へと突き進んでいる。若者の不安となっている。改革の目途はついていない。誰しもが忘れ去っている。マスコミの監視も薄れている。
 この100年という嘘を、安倍はこのTPPでもついた。TPP参加は「100年の計」という大嘘でもって、これを処理するのだと豪語した。安倍が生きている間に確認できればいいのだが?
<日本主導で協議?>
 もう一つの嘘は、このアメリカ主導のTPP協定を、なんと屈米派政権が「日本主導」で推進する、とも豪語したのだ。これにはさすがに「安倍という人間の頭の構造がどうなっているのか」を本気で心配する国民が多くいるに違いないだろう。
 こうした嘘を平然とやってのける政治人間は、遺伝子と関係しているのであろうか。岸は、東條内閣の大臣として米国に宣戦布告した戦争責任者である。敗戦後になると、ワシントンの忠実な下僕となって首相を務めた。これほど破廉恥な政治家を世界で見つけることは出来ない。
 その岸の影響を子供のころから受けて、2度目の首相になったというのも、安倍が世界でただ一人に違いない。
2013年4月13日8時50分記