本澤二郎の「日本の風景」(1285)

東芝の素顔>(その十四)
 昨夜、息子が夕食を作ってくれた。夕食の際、情報通の長男が社民党参院選向けポスターのことを口にした。「バックに福島3号機のきのこ雲が出ていた」というのだ。確かめたわけではないが、事実とすれば迫力のあるポスターに違いない。3号機は東芝製の原子炉だ。まぎれもない核爆発である。



 東芝は原子炉メーカー・原子炉輸出メーカーだ。小泉内閣に次いで、目下の安倍内閣でも首相官邸と、背後の自民党にも毒蛇のようにからみついて、原子力ムラの意向を、露骨に反映させている。三井住友傘下の財閥企業だ。経済音痴の筆者も、ようやくこの程度は理解出来るようになってきた。
 亡くなった息子のお陰である。
<反省・謝罪のない文化>
 東芝はこの3号機の核爆発について沈黙している。東電も政府も「水素爆発」と嘘をついて、それを新聞テレビも報道している。しかし、新聞テレビも3号機が東芝製とは報道しない。
 従って、国民の多くは東芝が原子炉メーカーという事実さえ知らない。これは驚くべきことである。反省も謝罪もしない悪魔のような企業体質が、東芝も含めた原子炉・原発メーカーの素顔である。こんな悪徳が通用していいわけが無い。
 その東芝のリモコン政権の安倍の暴走に対して、ワシントンのオバマもお冠というのである。当たり前だろう。戦争責任を裁いた東京裁判を否定している安倍である。従軍慰安婦や、過去を反省・謝罪した村山談話河野談話をも、率直に受け入れない皇国史観論者なのだから。
 たとえTPPで、ワシントンのいいなりになっていても、戦後体制まで否定する政権に、オバマは塩を送り続けることはしないだろう。正に極右政権そのものである。ワシントンの戦争屋が手助けしていても、大義オバマホワイトハウスにある。
 欧米先進国は原発に対するテロ攻撃を心配しているのだが、日本は極右政権とそれを支援する悪魔企業が、原子炉を世界にばらまいている?あるいは石原慎太郎のように核兵器製造にも手を出すかもしれない。この矛盾にどう立ち向かおうというのだろうか。
<「永い影」>
 人権派弁護士が1冊の本を「読むように」と届けてくれた。倉橋綾子作「永い影」という題名の小説であるが、中身は事実に基づいているという。まだ、半分しか読んでいない。
 それでも彼女の半生を知った。同世代だ。両親の繰り返される争いの中で成長する彼女は、学生運動にも呑みこまれてゆく。アルバイトに精を出していた筆者に比べると、随分と恵まれた学生生活を送っていた作者である。過激派学生の暴力行為の悪辣さにも言及していて、少しは参考になる。
 それにしても、どうして彼女の小説と対面することになったのか。そもそも、小説を読まない人間である。本屋に立ち止まっても、タメにするものばかりで、買って読んでみたい本などない。タレントのような小説家の本などは、押し付けられても読む気などしない。
 実は、先に紹介した「ABC企画NEWS」のことである。ここで取り上げられていた倉橋さんの“「封印された原爆報告書」を見て”の一文である。軍医や医師ら1300人がGHQの命令を受けて広島と長崎の被爆者を、治療もせずにただデータを集めて、それをワシントンに手渡していた、というNHK広島放送局の真相究明報道を、驚愕しながら感想にまとめていた。
 同じく驚いた筆者が、それを取り上げたのだが、それを見た弁護士が彼女の作品を届けてくれた、そうして「永い影」と出会うことが出来たのだ。この作品を読者にも勧めたい。
<元憲兵の娘>
 なんと現場は群馬県である。保守の金城湯池だ。母親は従軍看護師、父親は憲兵である。作者はその娘である。中国での恐ろしい過去を背負って戦後を生きてきた彼女の父の人生に、平穏な家庭は許されなかった。怒りが天皇の戦争責任に向いてゆく。「昭和天皇の先には死ねない」と口走っていた心境を理解出来る。
 敗戦によって中国から逃亡してきた元憲兵は、天皇国家主義の犠牲者だったのだ。母親は、大陸で軍医にもてあそばれてきた過去が、本当であれば平和な夫婦生活をゆがめてしまう。戦争が戦後にも尾を引いて、一家を翻弄するのである。
 敗戦時、多くの日本人が大陸で逃げ遅れて亡くなっている。だが、憲兵や従軍看護師はいち早く祖国に戻れたのだが、しかし、平穏な生活を手にできなかった。戦争の悲劇は、家族や親族にも及んでいく。
<精神を病む元日本兵
 反戦平和の学生運動にのめり込む作者の心情もわかる。あの時代の学生運動を、もっと語ってほしいものだ。
 父親は悪い夢にうなされながら生きるしかない。それを公言できない。精神は壊れてゆく。広島・長崎を伝えなかった1300人の軍医らもそうだったろう。謝罪も反省もしないで生きた多くの帰還兵の暗い闇の日本なのである。
 思うに、筆者の父は長男で家庭持ちのため、内地の航空整備兵だから救われた。もしも、もう少し若ければ戦場に駆り出され、蛮行の現場で死んだか、運よく帰還しても倉橋家と同じ運命が待ち受けていたかもしれない。
 倉橋家は、戦後の日本の家庭を映し出しているのである。特異な事例ではない。感受性の強い賢い娘は、長じてその闇にローソクをともしてゆく。そうして、この小説が生まれたのだろう。精神を病む兵士のことを、筆者はアメリカのベトナム帰還兵のことで、初めて気付かされた。まさか日本でも存在していたとは。帰還兵のほとんどは、過去も現在も全てを墓場に持って行ってしまったのだ。
<母・兄の自殺>
 倉橋家のことを多少知っている弁護士は、この本をくれた時に「母親と実兄が自殺している」とも打ち明けてくれた。これにも仰天してしまった。
 詳しい事情はわからない。しかし、或る程度の想定は可能であろう。
 侵略戦争が一家を、辛い人生に追い込んだのである。こうした経験者の声が戦後の日本で表面化しなかったのが、やはり不思議なのだ。天皇の戦争責任を問わなかった日本の3権、それを巧妙に悪用したワシントンの罪は重い。
 それどころか戦争犯罪者が政権を担当、その孫が2度も政権を担当、新聞テレビが批判しない。批判出来ないようにしている。この不条理をどう受け止めていいのだろうか。
 日本と日本人はどう考えても、呪われている?まともに生きようとする善良な日本人に対して、極右からは「自虐史観」という非難が浴びせられる。侵略者を祀る原始的神社信仰は「祭り」と称して、無知な市民の間で生きていて、未だ消滅していない日本である。

 「天皇の戦争」を総括しない日本である。これでは国際社会で通用するわけがない。ドイツとは天と地の開きがあろう。これが続く限り、日本再生は困難である。
<謝罪の旅>
 「永い影」を後ろのページからめくった。そこに作者の謝罪の旅が載っていた。「東寧」が、元憲兵が蛮行に及んだ地という。そこはソ連の侵攻に備えた地下の軍事基地である。
 筆者も一度、中国国家観光局の案内で、こうした地下壕の陣地を見学して仰天したことがある。多くの中国人を刈り出して、その後に殺害したという蛮行があったのだ。このことだけでも、恐ろしい戦争犯罪だ。関係した日本兵全てが戦争犯罪人として処刑される運命にあった。
 だが、当事者の多くが帰還している。その実態さえ明かされていない。不思議な日本である。安倍の先輩の森首相(当時)は「日本は天皇中心の神の国」と公言した。まともな日本人を驚愕させた。天皇主義・国粋主義自民党を形成しているのだ。
 元憲兵の娘は、父親に代わって謝罪の旅を敢行した。本来は安倍や森らが、率先して謝罪の旅をしなければならない。それは軍需産業として武器弾薬メーカーとしての過去を引きずる東芝も、である。
2013年4月28日11時15分記