本澤二郎の「日本の風景」(1305)

<財閥とナショナリズム
 TPP参加・10%消費税強行・原発推進・円安政策というと、現在のナショナリスト政権の重要施策である。全く同じ立場を取っている勢力・団体・組織というと、其れは財界・財閥である。どちらが主役かというと、震源地はスポンサーの財閥だ。財閥の意向に従う国家主義政権なのである。財閥こそナショナリズム国家主義国粋主義)を好む。反対に民主主義を嫌う。民主主義が徹底すると、強欲資本にとって暴利を手にする機会が少なくなる。時には処罰の対象になるからだ。戦前もそうだったが、戦後も財閥はナショナリズムを追い求めて、変わるところが無い。


<民主主義を嫌う財閥>
 言葉としての民主主義は、教科書などにあふれている。新聞テレビにも。しかし、真の民主主義は日本に存在していない。民意が政治に反映されない日本が、そのことを裏付けている。
 TPPについて、多くの国民や団体が反対しているが、野田内閣に続いて安倍内閣も詐術的言動を用いながら、強力に推進している。経済的な中国封じ目当てのワシントン政略に、財閥も同じ認識をしているからだ。反対派を、財閥は新聞テレビを使って抑えつけて、推進に向けての世論操作をしている。
 10%消費税も財閥の意向に霞が関が応じて、それに永田町が応じたものだ。3・11原発大惨事にもかかわらず、国家主義的な日本政府は必死で原発の輸出と、停止している原発の再稼働に懸命である。財閥の意思にナショナリスト政権が応えたものだ。
 急激な円安政策も財閥の意思である。株高と輸出増狙いだ。

 もしも、日本に真の言論の自由が存在するのであれば、新聞テレビは国民に奉仕する立場から、そうした財閥主導の政策にブレーキをかけることになるが、今は全くそうではない。本来は、政府と、その政府を動かしている財閥にメスを入れることになる。そこでは財閥の意思を、政治に反映させることなど出来ないのだが。
 当たり前と言えば、実に当たり前のことを日本人は理解していない。唯々諾々と従っている。新聞テレビの影響による。選挙における1票の行使で、より判明する。
 民主主義が正常に機能していれば、政府は議会と新聞テレビによって、常に監視され、誤れる政策の修正・廃止を余儀なくされる。それが日本にはない。国家主義政府とそれを支援する財閥によって動いている日本だ。
 国家主義政権は、領土に対して異常な反応を示すことにもなる。
<甘い歴史認識
 財閥はナショナリズムを好むことから、倫理観はほとんどない。過去への反省や謝罪の観念は薄いか、ほとんどない。たとえば戦前の強制労働に対して、真正面からそれを受け入れた財閥は、ほとんど存在しない。いまも法廷闘争を繰り返し、被害者の要求を拒んでいる。反して、極右政治家との連携・支援には、全くためらいを見せない。
 想起するまでもない。戦前の侵略戦争の黒幕は財閥である。財閥が軍部・政界・官界を動かした、隣国への資源略奪戦争だった。最近のブッシュのイラク戦争も、アメリカの1%の意思による石油資源の略奪だった。
 国際的な財閥というと、アメリカのロックフェラーや欧州のロスチャイルドが代表格だが、彼らには慈善事業という手段で不正に蓋を懸けたりしている。日本の財閥は、そうした活動さえ見られない。
<9条敵視・改憲軍拡への野望>
 日本の経済界から平和憲法を評価するという、まともな発言や行動を見聞したことなど無い。強欲資本の財閥にとって、平和憲法は邪魔な存在なのである。
 財閥は戦争に比例して拡大してきたのだから。商人から政商を経て、相次ぐ昭和の戦争で、莫大な富を蓄積して財閥化した。敗戦で解体されたが、周辺国の戦争で復活、財閥は戦前同様に、経済どころか、政治を動かす原動力となって、それは戦前を凌駕している。ワシントンに人材を送り込んでもいる。

 中曽根バブルの崩壊で破産寸前まで追い込まれた財閥は、血税を投入させることで蘇った。小泉―竹中組の売国奴政権の悪しき成果だ。国民の財産を横取りして再生したものである。こんなことも珍しい。「政治は弱者・国民のため」は偽りのスローガンなのである。それは民度の低さを象徴する事件なのだ。
<米産軍体制との連携>
 「一番もうかる商売は何か」「それは武器弾薬だよ。値段はあってないようなもの。しかも、血税を100%分捕ることが出来る」
 生前の宇都宮徳馬とのやりとりの一場面だが、軍部と財閥を熟知した宇都宮の分析は鋭い。戦争を拒絶する日本国憲法、なかんずく9条を敵視する財閥であることは、明白なのである。改憲軍拡は財閥の意思なのである。それを極右・ナショナリストが推進する。これが今の日本の危機・アジアの危機なのである。
 従って財閥は、ワシントンの黒幕である産軍(軍産)複合体と連携することになる。武器輸出3原則に風穴を開けるように与党・ナショナリスト政権のお尻を叩いている。
 それは非核3原則にもいえる。日本核武装化の震源地は、石原や中曽根だけではない。日本財閥がその本体なのである。
天下りで官界、金で政界・新聞テレビ>
 三井・住友・三菱といった戦前からの旧財閥が突出している日本財閥だが、それだけではない。日本の政治を、その豊富な資金力で動かしている企業集団を財閥と定義付けるからだ。
 財閥は、戦前のそれを圧倒する規模を有している。国際化・多様化させる世界企業群でもある。豊富な資金力で各国政府を買収する力を有している。国内では、官僚の天下り霞が関を抑え込んでいる。政界は与党に限らない。野党にも塩を送って、その影響力はただ事ではない。
 何よりも、世論操作機関としての新聞テレビを制圧してしまっている。日本からジャーナリズムを奪い取ってしまっている。民意を封じ込めてしまっている。すなわち、民主主義を根こそぎ奪ってしまっている。
 悲しいことは、このことに多くの市民は明瞭に認識していない。新聞テレビのお陰である。
<産経論調は財閥の見解>
 中国の日本研究者から「日本の財閥はどこに向かっているのか」という質問をいただいた。既に、その回答を示したつもりだが、具体的事例として「産経新聞を見れば判明する」ともアドバイス出来るだろう。
 産経は当初は、ごく普通の商業新聞だった。しかし、経営難に陥ってしまった。そこに財界・財閥が公然と乗り込んできた。まともな記者をはじき出して、財閥主導の紙面を提供するようになった。反共新聞である。これが財閥の本音なのである。
 反共新聞にこそ財閥の意思がある。必然的にワシントン右派の手先になり下がる。リベラルとも敵対する。この特異な新聞が、大きく人気を博すことはない。しかし、そのスポンサーのお陰でフジテレビを傘下に置いた。
 この産経路線を読売新聞・日本テレビが追随した。同時に、財閥新聞ともいえる日本経済新聞テレビ東京も。公共放送であるNHKの会長が、なんと右翼的な財界出身者である。NHKの偏向報道も極まっている。
 財閥の軍門に屈した日本の新聞テレビに対して、多くの市民は気付いていない。ここが怖いのだ。毎日・TBS、朝日新聞テレビ朝日も揺らいでいる。
 ややまともな新聞が東京新聞だ。夕刊紙の日刊ゲンダイは、ジャーナリズムの精神を彷彿とさせる紙面を貫いている。
 「新聞が権力に屈したら日本の民主主義は崩壊する」と予言していた宇都宮の懸念が、財閥主導の下で、いま本格化している。
2013年5月23日7時35分記