本澤二郎の「日本の風景」(1315)

<呑気なナショナリスト
 安倍は「成長」という字を間違えるなど、漫画好きの麻生と同じレベルの人物と見られている。苦労知らずのせいか、実に平気で虚言を吐いて、それでいてあっけらかんとして「呑気な父さん」ぶりを演じている?福島など原発被曝者に対して、これ見よがしに原発再稼働や原発輸出を必死で推進している。倫理観喪失の裏切り行為なのに、当人は無頓着なのだ。金が無いのに東北の復興を叫ぶだけで、アフリカにも大金をばらまくと約束する。民意を軽視するナショナリストの特性を、いかんなく発揮している安倍である。


<アフリカに平和・安定資金に1000億円>
 「アフリカには夢がある」といって、横浜で開催されたアフリカ開発会議(6月2日)で、かの国々を持ち上げる安倍は、平和と安定のために1000億円を提供したい、といって格好つける。不良の“あんちゃん”レベルだ。岸・安倍家のタックスヘイブンの秘密口座資金から下ろして、というのであれば拍手したいが、決してそうではない。
 アフリカ諸国は「軍事・警察力の強化」で応じた。まさか武器輸出を考えているのだろうか?怖い支援である。

 福島や東北の被曝・被災者のことを考えると、優先事項は日本国民の生活を補償することではないだろうか。小泉・安倍の内閣で失業した、多くの若者たちに使うべきではないだろうか。
 アフリカに対しては中国投資が先行している。それに“待った”をかけたい、ただそれだけでの見栄支援は返上してもらいたい。
<隣国とは領有権・歴史認識で緊張政策>
 父親とは異質、祖父とは同体である安倍である。実父・晋太郎は、岸や息子のような極右ではなかった。
 彼が自民党幹事長時代のことだった。日中間で歴史認識が話題になったころである。自民党内の右翼が怒って反発していることに対して、晋太郎幹事長は「それはおかしい」とたしなめた。その理由として次のように語った。「明治維新のしこりが、今も山口県福島県に残っている。長州と会津は仲が悪い。日本国内でもそうだ。いわんや敵対した国同士のしこりは、そう簡単になくならない。日本は隣国・隣人の声に耳を傾けるべきだ」と。
 筆者はこの時、初めて福島県民と山口県民の不仲を知った。安倍の父親はまともだった。彼は新聞記者もしている。当時の新聞は、すべてリベラル・平和主義の立場を堅持していた。
 言及するまでもない。極右の標的は平和憲法を破壊することに尽きる。侵略戦争という認識そのものに抵抗する。「悪いことをした」という反省する自覚が足りない。従って、東京裁判従軍慰安婦についても「おかしい」と国際常識に文句をつける。安倍は首相になっても、それを止めようとしなかった。

 ホワイトハウスがNOと言わなければ、今頃どうなっていたか。尖閣問題は石原とワシントン右翼の連携で、寝た子を起こしたものだ。安倍はそれを好都合だと受け止めて、隣国との緊張政策に懸命である。しかし、口を開くと「中国と韓国には、いつも窓を開いている」とうそぶくのだ。
<ワシントンに裏をかかれた安倍>
 安倍にとって、アメリカが推進するTPPに参加する最大の理由は、それが中国を封じ込めるためのものだからである。そのためには、日本の経済的不利益は仕方のないものだ、との判断がある。
 反共主義者にとって、中国との友好はNOなのである。これは理屈以前の思想的感情論である。だが、事情が一変してしまった。
オバマは北京に対しても「TPP参加」を要請していたことが発覚したのだ。安倍は、オバマに裏をかかれたようなものだ。このことは、ワシントンに信頼されていない安倍を、改めて裏付けたことになる。
<TPPに中国参加を要請>
 中国政府もこの事実を認めている。しかも、前向きに検討している。参加することで、中国封じの策略を跳ね返せるからだろう。
 むろん、中国も参加することになると、合意形成に相当の時間がかかることになる。日本経済を根こそぎ略奪されかねない事態も、踏ん張り次第で、それを返上することも可能であろう。
 「関税ゼロ」という目標は、単なる希望でしかないことになる。参加国が合意できる貿易ルールをまとめるしか方法はない。これは悪いことではない。当たり前の経済ルールである。
<面子丸潰れのナショナリスト
 要するに、TPPに中国が参加するようになれば、安倍の目論見は失敗したことになる。安倍のメンツは丸潰れであろう。6月7日の米中首脳会談が、新たな注目を集めることになった。

 安倍の改憲論は、アジアやワシントンのリベラル派からすると、戦後の国際秩序を否定することでもある。国連への挑戦ともなる。そもそも憲法を擁護する義務を負っている政府首脳が、改憲を主導することは憲法が禁じている。
2013年6月3日記