本澤二郎の99北京旅日記(3)

<中米首脳会談>
 北京外国語大学日本学研究中心(通称・大平学校)での講義を終えてホテルでひと休み、夜になって近くの大衆食堂でささやかな食事を済まして戻ると、廊下の大きなテレビ画面に米カルフォルニア到着時の習近平主席夫妻が大きく映し出された。いよいよ中米首脳会談(現地時間6月7日)が幕を開ける。オバマ大統領との見合いは、既に方向は固まっている。友情を固める、それが大きな成果となる。両雄は6時間、7時間かけてあらゆるテーマについて、率直に意見交換することになる。それだけで二人の政治的立場は数倍にも強化されるのだ。東京はやや苛立ちながら、二人の仲むつまじい様子を見守るだけだ。


<友情と友好の両雄>
 お互いを知るところから友情は始まる。相手が何を考え、何をしようとするのか。
 温暖な気候のカルフォルニアが、そのために格好の場所を提供する。思い起こせば、72年の日中国交回復を実現するために、米議会説得を思い立った宇都宮徳馬が用意した会議場所もカルフォルニア州のサンタバーバラだった。「中国と国交を回復すると、日本は共産圏に吸収されるのではないか」という米議会重鎮を説得して、同年9月に正常化が実現した。
 今回、二人はお友達になる。良い友達関係を構築するだろう。内向き人間の習とオバマ、外向きの夫人同士と均衡のとれた両家は、この出会いを生涯、大事にするだろう。それだけで世界の危機を回避することが可能になる。世紀のお見合いの成功率は100%だ。
<電話・テレビ会談が日常化>
 日本からすると、日朝国交正常化が具体化するかもしれない。拉致問題は両雄が保証人になることで、決断すればいつでも可能となろう。安倍の電撃訪朝で決着、参院選圧勝材料にしたいという思惑に従ってくれるのかどうか、大いに気になる所だ。
 今後は、北京とワシントンは常時、電話でのやりとりが行われるだろう。テレビ会談でも。「腹の探り合い」を解消出来るだろうから、これは大変な武器である。東アジアにとって有益となろう。CIA・米産軍体制・ネオコン任せのアジア太平洋政策に変化が起きるだろう。
 軍事面での日米・韓米の連携強化作戦にも、一定の歯止めがかかるかもしれない。米中首脳の常時電話が大いに貢献することになるからだ。東アジアの最高情報をホワイトハウス首脳は直接入手できる。CIAにとってはやりにくくなろう。ジャパン・ハンドラーズ(日本調教師)の出番も少なくなろう。
 安倍内閣は、赤坂の米国大使館から本場リベラルの監視を受けることになる。ケネディ家の目線は甘くないと信じたい。従来のような従軍慰安婦発言は禁句となろう。
<反ナショナリストで一致>
 安倍は日米同盟をうたいながら、その実、ワシントンの裏をかこうとしている。ワシントンの主は米産軍体制の雇い人のブッシュ家ではないのだから。しかし、米連邦議会調査局は安倍ナショナリストを克明に暴いてしまっている。安倍改憲軍拡を推進する読売・産経にも監視の目が向けられるかもしれないのだ。
 オバマも習も、ともに戦後政治秩序を否定する国家主義天皇国家主義に警戒心を抱いている。二人は反ナショナリストで一致している。安倍はモスクワのプーチンと握手、その勢いで原発の売人になり下がってトルコやベトナム、インドに原発売り込みに必死となっている。
 安倍は中国封じの外交に専念してきているが、オバマは中国と友好関係を確立しようとしている。日米逆転なのである。中米両者とも経済関係での平和と安定に共鳴している。
<東京の頭越しも>
 今後の国際情勢の変動に際して、東京の頭越しに中米のトップ同士の意見交換がなされるかもしれない。日米同盟の空洞化である。それはそれで好ましいのだが、ワシントンに見放される属国・日本も哀れである。
 戦後体制をぶち壊そうとする野望第1弾は岸内閣の日米安保改定の強行だった。第2弾が中曽根内閣の戦後政治の総決算、第3弾が安倍の戦後レジームの脱却だ。安倍のそれは改憲軍拡への強行である。戦争の出来る日本への大改造である。
 この問題で米中首脳は相当突っ込んだやり取りをするであろう。ワシントンが安倍を見限った時、スキャンダルが発覚するかもしれない?
<安倍に塩を送る公明・共産>
 この国家主義政権に塩を送っているのが、だれも非難しない公明党共産党である。
 公明党創価学会自民党を支持しなければ、自民党が圧勝することはない。同じく、共産党が単独で全選挙区に候補を擁立して、反改憲軍拡派の分断を図ることで自民党を助けている。公明・共産両党が自民圧勝の功労者になろうとしている。これが全く理解できない。
 筆者の限られた小さな中国人脈において、この両党が話題になることはほとんどない。評価されていない。9条危機を目前にしながら、それでも自民党に塩を送り続ける両党の政治感度に対して驚愕するばかりである。

 米時間6月7日で世界の政治力学は大きく変動する。そのラチ外に置かれている東京の国家主義政権なのだ。
2013年6月7日記