本澤二郎の99北京旅日記(10)

<深夜の思索・日本国家主義の牙に米中対抗>
 体調回復のため、少し早くベッドにもぐりこんだ。ところが、その反動で早く目が覚めてしまった。午前3時過ぎか。いつもなら、そのまま再び寝込んでしまうのだが、こちらでは運動をしていない。其の分、頭脳が冴えてくる。「安倍は中国を敵視しながら、その実、敵は本能寺・ワシントンだ」という、ややうがち過ぎの分析の背景には、アメリカン・リベラルの鋭い分析も関係している。北京駐在のワシントン筋がその震源地との情報を受け入れると、確かにそうした分析も生まれてくるだろう。急ぎ習近平を、米保養地のパームスプリングスで歓待したオバマの心情も理解出来る。改憲軍拡(憲法を改悪・再軍備)の安倍外しは、あり得ない話ではない。かのアルカイダもCIAが養成した組織だった。日本の国家主義の復活に手を貸してきたのもCIAだ。だが、国家主義はワシントンへの復讐を忘れていなかった?陰謀渦巻く国際関係の下では、一概に捨てされるような分析ではないだろう。どうだろうか。


 CIAの支援で政権を2度も奪取した安倍晋三と分析する筆者だが、果たして彼が心底からCIAを信頼しているわけではないだろう。「米諜報機関の傀儡」に満足するナショナリストであるはずもない。祖父のA級戦犯容疑者・戦争責任者の岸信介も、同じくCIAの資金力で復権したものの、彼がCIAに100%屈したとも思えない。ワシントンが支援した平和憲法を、改悪して再軍備を果たしたい、その後にワシントンに牙を向く魂胆ではないか。愚かな安倍の一連の国家主義の言動からは、確かに読み取れる。
 その証拠が安倍の時代錯誤の歴史認識である。GHQによる占領政策軍閥と財閥の解体)に対して、安倍とその黒幕の支援者・財閥は強く反発してきている。戦後体制をぶち壊そうという思惑を、言外に明瞭に発信している。ワシントンのリベラル派が、もっとも恐れる事態が永田町に台頭してきている。米連邦議会調査局レポートも断じた。天皇国家主義の復活について、その制圧に米中は文句なしに利害が一致する。これが8時間会談の主要な議題ではなかったろうか。疑心暗鬼の安倍に対してオバマは、6月13日になってわざわざ電話をしてきて、安倍をなだめすかしているではないか。
ホワイトハウスの実権を握ったオバマ
 CIAを含めてワシントンの情報・諜報機関は、産軍体制・金融マフィア・1%に握られている。あろうことか、目下、アメリカのそうした機関による米国民を丸裸にさせている諜報実態が、元CIA職員の暴露で発覚、大騒動になっている。この暴露に、リベラル派の大統領府も関係しているのではないだろうか。ホワイトハウスが大敵・CIAを退治しようとしている?これもうがち過ぎか?
 ヘーゲル国防総省の下で、最近、在日米陸軍司令官が部下の不始末を隠ぺいしていたという事案で、異例の停職処分を受けた。ペンタゴンにもリベラルの風が吹きまくっている証拠だ。ジャパン・ハンドラーズの一人、コロンビア大学のJ・カーチス教授が「尖閣(釣魚)は棚上げすべし」と軌道修正した。R・アーミテージ元国務副長官(ネオコン)と仲たがいしたのだ。新事態に焦る安倍や麻生はというと、国政を棚上げして、たかが都議会議員選挙の応援に、党と政府を上げて走り出している。これも参院選圧勝に向けたものだ。その安倍は持病が悪化、高圧酸素治療を受けた。
 既に永田町の一部では「ややリベラルの谷垣禎一に交代か」との憶測まで流れている。そんな安倍ナショナリストに塩を送る公明党創価学会の背後で、池田名誉会長の健康が云々されるという怪説も噴き出している。米中首脳会談は安倍内閣の土台を、激しく揺さぶっているのだ。株の乱高下も連動しているのか。
 再軍備軍国主義を目指す安倍路線に対して、間違いなくワシントンのリベラル大統領府が挑戦状を叩きつけている。その第1弾が米中首脳会談ではなかったのか。緊張外交政策と戦争で暴利を手にするネオコンの馬を乗り回したヒラリーは、大統領選挙で彼らに敗れたケリー外交に取って代わられている。安倍と霞が関は、米民主党リベラルにパイプはないのだ。
<陳梅君との再会>
 頭の体操に深夜2時間近くかけて、再び布団にもぐった。起きたのは午前8時過ぎだった。下痢っぽい体調を回復させようとして、朝食に豆乳をしっかり飲もうとした。珍しく容器の底が見えている。ロシア人観光客が目立つこのホテルに中国人客が増えている証拠だ。そういえば端午の節句ということらしい。
 この季節、人民は皆実家に帰り、家族とのだんらんをして過ごすようだが、一部の者は旅行に興じる。その影響が出てきている。ホテル内に家族客が目立ってきている。
 今日の昼に外交学院OBの秀才・陳梅君が招待してくれるという。彼女は語学の天才であることは、以前にも紹介した。目下、国際放送局の英語部で仕事をしている。日本語のプロが、英語で飯を食っているのである。こんな芸当ができる中国人を他に知らない。
 6月9日(日曜日)も小雨が降っていた。王府井駅まで歩くのがおっくうである。運よくタクシーがつかまった。天津の友人は、タクシーをつかまえるのに30分もかかった、という話を電話で聞いている。中国のタクシーは忙しい。利用者も多いのだ。東京と異なる。それでいて地下鉄・バスの利用者も多い。北京は巨大な消費地なのである。

 いつも悲しく思うのだが、仮に日本がドイツのように、まともな歴史認識をしていれば、日本の財閥は途方もない利益を上げていたであろう。右翼政権とそれを支える財閥のお陰で、北京地下鉄はドイツ製、タクシーは韓国製だ。上海タクシーはドイツ製である。高速鉄道(新幹線)さえも、日本はまとめて受注出来なかった。これらも日本の国家主義負の遺産となっている。友好を破綻させるナショナリズム天皇国家主義にはうんざりである。

 その国家主義が牙を向いている。それを公明党創価学会が支援して参院選で圧勝、憲法を改悪して再軍備へと突入、軍国主義の日本に改造しようとしている。他方で、共産党は候補者を大量に擁立して、野党を分断して自公に塩を送るという今の日本政治である。どう考えても、狂っていないだろうか。アメリカン・リベラルと北京の新体制が、手を携えて真っ向から“待った”をかけ始めているというのに、だ。

 陳梅君は前門にある「東来順」という有名な老舗のシャブシャブ店に案内してくれた。直前に東京の張剣君から電話が鳴った。「6月11日の村上パーテイーに参加したい」という連絡だった。ネットや携帯が時代の主流である。地球が狭くなる理由だ。オバマ習近平も、このように常時、意見交換が出来るだろう。それには諜報機関による盗み聞きを厳罰にする。日本も、である。今後、二人の友情がアジア・太平洋の人々に少なからず影響を与えてゆくだろう。二人と歩調を合わせられる政治家が日本にいるだろうか。リベラルしかいない。
 河野洋平の息子などは合格するだろう。
 夜には上海テレビの隋君が王府井の四川食堂で接待してくれた。彼とは東京取材の折、交流するようになった。若くて恐ろしいくらい長身の上海人だ。       2013年6月14日記