本澤二郎の99北京旅日記(最終回)

<2号さん万歳>
 今回の訪問で面白い話を聞いた。日本の官僚や政治家が、いかに恵まれているかがわかった。といのも、中国の官僚たちは、ここ数年来、青息吐息の状態に置かれていることは、前回の訪問で聞いていた。腐敗官僚の場合に限るのだが、現実には、中国人の誰もかれもが官僚の腐敗を100%信じ込んでいる。まず否定する者はいない。権力を手にする限り、間違いなくそれを乱用するためだ。日本も同じに違いないが、日本の官僚・政治家は、暴露される危険性が少なく、その点で恵まれているのだ。中国のそれは、腐敗を暴く人物が腐敗官僚を100%丸裸にしてしまう威力を有しているのである?



 「官僚腐敗の8割は2号さんの内部告発。100%真実」というのだ。証拠不十分で不起訴という日本式裁判は通用しない。これを聞いて、つい「2号さん万歳」と叫んでしまいそうなのだ。
 中国の官僚たちは、その持てる権力をフルに活用するため、法外な賄賂を手にすることが出来る。「権力と金によって、いくらでも女性をかこうことが出来る。現にそうした官僚が多い」とある学者は打ち明けてくれた。
 そこに彼らの落とし穴がある、というのだ。彼女を裏切る場面が必ず起きるため、怒った彼女が内部告発して事件化させる。高級時計を5個も10個も保有しているという事実が判明すると、続いて住宅を10軒、さらには50軒も保有していることも暴露される。
 それがインターネットに載ると、瞬く間に数十万人の人民がアクセスする。これを当局が隠ぺいすることは出来なくなる。問題の官僚の逮捕・失脚が待っている。
 このような事例は日本ではマレな方だ。今の都知事にも元彼女から追及を受けているが、猪瀬の場合、ここは日本とばかり開き直っているらしい。日本のネット世論はまだ弱い。新聞テレビが報道すれば大変なことになるが、財閥―電通ラインで蓋をしてしまう。
 徳洲会の一大スキャンダルについても、新聞テレビは報じようとはしない。国会でも追及しない。野党も新聞テレビも腐敗の渦に呑みこまれている。その点で、中国のネット世論はすごい。
 これこそが中国の民主主義なのである。それを支えているのが、2号さんというのである。
<日系重役の振舞い>
 「日系企業の重役たちも、中国人女性を何人もかこっている」と、かつて大手自動車会社で秘書として勤務した知日派中国人は、自ら見聞した事実をこう話している。
 大分前に「人事異動で東京に戻ることに衝撃を受ける日本人は多い。理由の多くは、彼女との別れが待っているからだ」という話を、上海で聞いたことがある。
 資金力のある重役であれば、東京に連れて来て継続することも出来るだろうが、中には泣く泣く分かれるケースも少なくないらしい。子供がいると、なかなか厳しいという。

 以前、首相官邸の報道室で長く働いていた役人が「岸信介は台湾の彼女との間に子供がいる。今どうしているか」と筆者に打ち明けたことがある。ありえないことではないだろう。
 日系の大手企業で働いたことのある中国人は「日本の女性の心理が理解できない。夫が複数の中国人女性と関係していても、其れを知りながら平然としている奥様がいる」と首をひねりながら語っている。
 中国に比べて日本は男尊女卑が濃厚である。儒教官尊民卑)の影響が、今も強く残っているのだろう。その点で、中国の女性のほうが自立している。
 日本企業の中国大好き人間の中には、日本ではなかなか出来ない“遊び付き”だからであろう。むろん、それは台湾・韓国・タイなどに進出した日本企業重役でも同様だった。海外勤務の日本人の勲章なのか?
 彼らこそ中曽根バブル崩壊の被害者なのだ。これからはアベノミクスか。
<値上げした北京タクシー>
 先に雲助タクシーのことを書いた。その事情を中国人学生が教えてくれた。彼らは収入に満足していないからなのだ。しかし、だからといって雲助タクシーが容認されるわけではない。
 以前、同じような経験をした際、中国人記者がすぐに調べ上げて犯人を捕まえたことがある。当局の対応は厳しい。タクシーNOや運転手の名前をメモすれば、捜査を開始してくれる。
 「今のタクシー運転手は、1カ月会社に収入の5000元、ガソリン代5000元を支払うと、手元に3000元程度。そのことで運転手は怒っている」というのだ。
 そんなこともあって当局は値上げを認めた。3キロ10元を13元、3キロ以上についてこれまでは2元アップ、これを2・3元アップにした。渋滞の場合は、さらにアップするという。
 現在は、この新料金体制で北京のタクシーは走っているというのだ。
 かつて中国人女性の人気NO1はタクシー運転手だった。運転手が一番の金持ちだったからである。中古の車を持って、タクシーとして走らせると、金持ちになれた時代もあった。ただ、いえることは中国ではタクシーが沢山走っているが、利用者も沢山いる。つかまえるのに30分は決して珍しくはない。
<厳しい戸籍問題>
 中国人にとって、特に地方出身者は戸籍というハンデに泣かされている。これがどういうことなのか、初めて地方出身の中国人に聞くことが出来た。
 人々は大都市にあこがれて働きに出てくる。しかし、そこで子供たちを教育するとなると、大変なお金がかかる。北京市民の子供とのハンデである。差別が待ち構えている。
 「地方の子供が大都市の有名大学に入るためには、大都市の子供たちよりも高い点数をとらなければならない」ともいうのである。地方出身の学生レベルの高さを裏付けてもいるのだが。しかし、これはやはり差別だろう。
 夫婦共稼ぎでも厳しい。せっかくの北京・上海生活も、満足に子供に教育を受けさせることが出来ない。これが農民工の不満なのだ。
 「北京では戸籍のない人が増えてきている」が、これが社会不安の元凶なのである。しかし、そうしないと北京など大都市人口は、爆発してしまう。こうした制限下、賄賂もはびこる、腐敗の温床ともなるのである。
 車を購入するためには、ナンバープレートを手に入れなければならない。これが抽選方式で、増える車の増大を抑制している。国営企業の就職にも差別が待っている。住宅の購入にも。
 「いま最も求められている政策は、公平・公正な制度にすることだ」という。頷ける指摘である。差別される側は賄賂を使って這いあがってゆく。そこに官僚の腐敗を助長する。「北京の戸籍を取るのに30万元」という話もある。
 中国の戸籍制度は2000年の歴史を有している。自国の民を匈奴から守るためのものだったらしいが、これが差別の温床となっている。少しずつ改革されてはいるが、むろん、不十分きわまりない。
 中国の政治改革の本丸は、この戸籍制度にあるのだろう。公平・公正な社会制度は、世界各国の課題である。財閥・1%が支配する日本や欧米もまた、一種の差別社会といえるだろう。
 人間の智恵が試されている。改革は不断に続けられねばならない。
<日本の新聞が“財閥”を活字にした!>
 筆者は今回、財閥主導・財閥支配の日本をテーマに講義・講演を、学生たちに語りかけてきた。帰国した直後に日本の新聞テレビに「財閥」がニュースになった。「財閥の娘を名乗った詐欺事件」がそれである。「三井財閥の娘」というふれこみに、小銭を持っている市民が引っかかったというのだ。
 庶民の脳裏に財閥は生きている。新聞テレビは財閥にメスを入れられないが。
2013年6月16日記