本澤二郎の「日本の風景」(1412)

<日本人が知らない中国人強制労働>
 一部日本人でないと、近現代史を研究していないため、68年前の歴史の多くを知らない。筆者もそうして大人になり、中国の大地を歩くたびに気が重くなるばかりだが、それでいてそのことに熱中できない。職業柄、日本の現在と世界の動向に目が向いてしまうからだ。その足元の日本だが、80年代半ばに毒花が開花。以来、戦後否定したはずの天皇国家主義の台頭に振り回されてきた。そして、とうとう同主義を信奉する政権が生まれてしまった。ために、隣国との外交は無残にも破綻。そのせいだと思うのだが、先日来、筆者も何度も訪問した北京盧溝橋の抗日戦争記念館で、日本人が全く知らない中国人強制労働の貴重な資料が展示された。



<ドイツでは歴史に蓋をしない>
 近所のおばさんの30代の息子が上海で働いているということを知ったので、9・18事件(満州事変)のことを聞いてみた。「知っている」という返事に安堵した。「息子はどうか」に対しては「上海に行く前に近現代史を勉強させた」と笑顔で応じてくれた。
 真面目な母親と息子の存在に安心した。だが、中国人強制労働についてはどうだろうか。花岡事件も概要でしか知らない筆者だ。言及するまでも無く、近現代史を教えない日本の教育は、今も続いている。加害責任に気付かない日本人ばかりだ。これでは隣人と仲良しになれるはずがないだろう。ドイツでは想像さえも出来ない。

 韓国人を蔑視する風潮が気になる昨今だ。いじめ・差別化は、学校から職場へ、さらに国際社会へと拡大してゆく。逆に白人を蔑視する風潮は全くない。日本政府を批判できないヒラメ記者は、他方で外国、とりわけ中国や北朝鮮については、反共右翼の石原を満足させるほど、よく取材して報道したりする。均衡が取れていない。そのことに当人も気付いていない。
<三井・三菱が突出>
 この抗日戦争記念館の資料展示会は、東京の華僑総会が入手した日本外務省報告書を寄贈したことで実現した。華僑総会の知られざる成果だが、そこに善良な日本人が手を貸していれば救いなのだが。ともあれ中国人よりも、日本人が知るべき資料なのである。だから、こうして日本人向けに紹介する理由である。

 9月19日の人民日報ネット日本語版によると、強制徴用された中国人労働者は、およそ4万人で、実に169回に分けて日本に送り込まれた。野蛮な時代背景があったとはいえ、戦争犯罪として正当化できるものではない。
 華北5省が3万5778人、華東地域2137人、東北部1020人などとなっている。日本侵略地区で拘束された抗日兵士、農民、商工業者らである。日本企業への配属を厚生省が担当した。35企業、135の作業場へと送り込んだ。
 財閥の要請に対して、官閥と軍閥が応じて、強制徴用が行われたものだ。財閥と官閥の連携は今も変わりない。中国人労働者は、財閥企業で奴隷のように酷使された。命を奪われ、祖国に帰れなくなった中国人も多くいたはずである。これを戦争のせいにする軽薄な輩がいるが、通用するわけがない。
 作業場は、三井財閥三菱財閥がもっとも多いことも、外務省報告書で判明した。

 余談だが、明治の藩閥政治の悪しき主役で知られる、長州軍閥山県有朋の懐は、その多くが三菱財閥からの資金だった。軍閥も財閥に養われていたのである。金の力である。金が軍閥と官閥を動かす原動力である。政府の政策は財閥の意向が反映する。日本敗戦後、占領軍(GHQ)が真っ先に財閥を解体した理由は、海外侵略の原動力が財閥だからなのだ。

 この日本財閥は、戦後、朝鮮戦争ベトナム戦争で復活・拡大した。高度経済成長期に戦前の数百、数千倍にも細胞分裂しながら巨大化して、日本政治を背後でコントロールしている。公害列島の根源となった。彼らは右翼に塩を送り続ける、国家主義台頭を促す勢力でもある。財閥支配の日本、1%社会の日本なのである。
東芝・東電は三井傘下>
 財閥の暴走を止めることの出来る、政党・政権が生まれるようになるのか。ここが日本の将来を決定づけるだろう。
 彼らによる金銭的支援が安倍を頂点に押し上げたものだ。安倍は明治の山県有朋の地位を手にしたようなものだ。安倍外交の中心軸が、原子炉売り込みにある。そのための先陣を、首相の地位を悪用して買って出ているのだ。
 原子炉メーカーは東芝・三菱・日立である。東芝は三井傘下の代表的財閥企業で、歴代日本政府や経団連に代表を送り込んでいる。安倍の実兄は三菱商事三菱財閥と岸・安倍家の深い仲は有名である。
 東電福島原発の3号機は東芝の原子炉だ。核爆発した事実をまだ隠している世にも恐ろしい財閥である。東電もまた三井傘下である。空前の惨事に血税を注入させている東電ではないか。いまだ刑事責任を一人も取っていない東電。逮捕者ゼロの東電である。
 財閥に対して、憲法が明文化している「法の下の平等」は形骸化している。法治国家ではない日本なのである。これに沈黙する法曹界だ。日弁連は何を考えているのか。検察庁とグルなのか。最高裁は小沢事件の黒幕として大活躍していたことが判明したようだが、東電事件を今後も蓋をしてしまうのか。
 自己否定する法曹界に対して、国民の一人として失望するばかりだ。
<過ちを認めない財閥>
 本日のテーマである中国人強制労働の主犯もまた三井・三菱などの財閥であることが、抗日戦争記念館で公開された。現在も中国で暴利を手にしているのは財閥である。
 東芝は中国で4基もの原発を建設している。原発地震に耐えることは出来ない。崩壊して核爆発する可能性は、福島3号機が証明している。今も被曝した住民を誰も確認できていない。汚染水処理もはっきりしない。核のゴミの処理には10万年もかかる。こんな危険で高価な物体が、他にあろうか。
 なぜ東芝は暴走するのか。嘘と隠ぺいでやり過ごす三井傘下の財閥だからである。未だに強制労働に対する反省をしていない日本財閥である。反省と謝罪のない所では、同じことが繰り返されるだろう。

 盧溝橋の抗日戦争記念館での資料展示会は、日本人と中国人の将来を考える上で、極めて大事な課題を投げかけている。
2013年9月26日8時00分記