本澤二郎の「日本の風景」(1567)

<米中韓の圧力に屈した安倍・ナショナリズム
 3月14日の国会審議の場で、安倍首相は「従軍慰安婦の見直しはしない」と明言した。ワシントンの圧力に屈したことになる。ホワイトハウスは直ちに歓迎のコメントを発表、ソウルも好感をもって受け止めた。安倍は翌日、次期経団連会長(三井財閥)とゴルフに興じた後、外務省の事務次官らを呼び付けて海外の反応を確かめた。就任1年、ワルガキのように世界の歴史認識の常識に反撃してきたが、遂に弓折れ矢尽きてしまった。安倍・ナショナリズムの敗北を意味する。


従軍慰安婦に関する河野談話見直し止めると明言>
 安倍は国家主義者の代表として歴史認識の転換・正当化にかけたのだが、21世紀の国際社会は甘くなかった。米中韓がこぞって安倍に襲いかかった。いまや1945年当時の連合国が連携して、安倍のナショナリズムに怒りのこぶしを振り上げたのだ。
 安倍は口先だけで「河野談話の見直しは止める」と内外に誓った。むろん、心は別である。彼にとっての屈辱に違いない。安倍の口先に信用も信頼もない。空虚でしかないのだが。
 70年前の史実を皆知っている。敗北した当時の軍国主義の政府や軍部は証拠を一斉に消却した。だからといって史実を覆い隠すことは出来ない。村山・河野談話を否定することは、いかなるナショナリストでも無理なのである。
<安倍政治失墜の始まり>
 安倍政治は、新聞テレビを懐柔する形で政権を運営してきた。相手は無知蒙昧の市民が多数だから、いくらでも世論操作は可能である。しかし、カネがなければ何もできない。経済の再生・復活を国民に見せる必要がある。
 それが円刷りである。輪転機を回すことで可能だ。そのためには日銀を配下に置けばいい。そうして安倍は黒田を送り込んで、円を刷りまくり、急激な円安を実現、車と電気の財閥を儲けさせた。実際の輸出量は増えているわけではない。数字のマジックに過ぎない。
 これを新聞テレビは大々的に宣伝、あたかも景気回復だと愚民を信じ込ませてきた。一方で、改憲軍拡政策を推進、比例して極右の歴史認識の正当化を図ろうとした。この二つは連動している。隣国との緊張で世論操作、人々を民族主義化させる。その勢いを改憲軍拡政策に向けて、推進させる。
 武器輸出・戦争する集団的自衛権の行使という、戦後の平和主義の放棄作戦である。戦後体制を否定するナショナリズム国家主義の危険な政治路線である。これを批判しない新聞テレビに対して、北京・ソウルそしてワシントンが噛みついた。
 安倍政治の失墜の始まりである。ことしを「政変の年」とする筆者の分析には、こうした背景を踏まえている。新聞や議会が健全であれば、国家主義の政権が東京に誕生することなどはなかったことも事実である。
 安倍の失墜は、背後のナベツネ読売と財閥の失墜でもある。
<21世紀に国粋主義復活は不可能>
 東京に国家主義の政府誕生は、ベルリンにナチスの傀儡政権が誕生したようなものである。欧米に極右政権が実現する可能性はゼロである。
 世界に根を張るユダヤ人社会とイスラエルが目を光らせている。その点で、アジアの、特に北京とソウルは甘かった。朝鮮半島の分裂と攻防戦が災いしてきている。
 南北朝鮮が仲良くなれば、東京の暴走は無理になる。南北対話の行方も日本のナショナリズムの動向を左右する。
 いずれにしろ、東京に国家主義の政権が存在、永続することは不可能である。今回の米中韓の対応を分析すると、彼らが日本のナショナリズムを容認することはないことは明らかだ。安倍の分身もまた、厳しい制約を受けることになろう。
NHK会長に右派メディアも反撃>
 いち早く安倍の分身、三井傘下の代表として安倍がNHKに送り込んだモミイとかいう会長を、右派メディア「文芸春秋」が血祭りに上げた。
 国会での野党追及は激しさを増している。「従軍慰安婦はどこにもあった」という奇怪な歴史認識を披歴したNHK会長を、国際社会は容認しない。NHK内部での抗争も勃発していると聞く。
 安倍は必死でモミイをかばっているが、それも限界に来ている。財閥・三井と国際社会との攻防戦でもある。安倍体制はいうなれば、三井と三菱の傀儡政権である。海外の目は、この超巨大財閥に対して厳しくなってきている。
衆院議長も原発再稼働に反対>
 原発再稼働に突っ走る安倍内閣だが、これに真っ向から反撃した小泉元首相と細川元首相である。都知事になった舛添も時限爆弾を抱えてのスタートである。これがいつ爆発するのか。
 最近は、日刊ゲンダイ・東京に次いで、朝日も覚醒してきているという。これに毎日が加わると、世論も変化する。4月からの大増税で世の中の雰囲気は大きく変化する。
 そのせいかどうか、衆院議長の伊吹が原発再稼働に反対している。直接確認していないが、3・11の政府主催の式典で言明している。この影響も大きい。安倍NOなのだから。
 伊吹は原発派の中曽根の子分である。それでいながらの伊吹の離反は、中曽根の影響力の低下を意味する。中曽根の政治力はナベツネだ。ナベツネにも異変が起きていると見たい。
アベノミクスにも待った>
 欧米は急激な円安に反発している。安倍―黒田の暴走にブレーキがかかった。これ以上の円安は無理である。4月から完全にアベノミクスは崩壊するだろう。
 日本経済は一変することになる。
 余談だが、筆者が利用している新橋駅前の900円カットの床屋が、なんと4月から1400円にべら棒な値上げ宣言を出した。これは仰天するような悪辣な値上げである。対抗する床屋の誕生を待ちたい。消費低迷を想定させる深刻すぎるサービス業の動きである。
 テレビ報道では、牛丼の吉野家が値上げ、逆にすきやとかいう牛丼は値下げという。吉野屋の転落必至だ。8%消費税への対応で業界の変動が起きる。ただし、消費者にかぶせる業者は選別されて転落する運命にある。
 アベノミクスの正体に、これまで誤魔化されてきた消費者は目を覚ますことになろう。
<次は靖国参拝
 安倍・ナショナリズムの核心は、靖国信仰・戦争神社参拝にある。神道過激派・神社信仰過激派に対して、米中韓は警鐘を鳴らし続けている。個人の信仰は自由だ。しかし、公人のそれは日本国憲法違反でもある。安倍に大義はない。
 「平和祈願」とうそぶいても誰も信用などしない。
 依然として、米大統領の4月訪問日程がぐしゃぐしゃになっている原因である。ホワイトハウスは東京の国賓待遇を蹴飛ばして、ソウルに飛ぶ。「靖国参拝断念」を安倍に迫っているのだが、安倍は従軍慰安婦で屈したが、靖国で屈すると安倍政治の根幹が崩壊することを意味する。
 国家神道の復活・靖国の国家護持・天皇の神格化に舵を切りたい安倍と、国際社会のせめぎ合いは、この1点に絞られる。
2014年3月16日8時55分記