本澤二郎の「日本の風景」(1571)

<復活した日本財閥に初の法廷の裁き>
 国際社会は、ウクライナのクリミヤがロシアに編入されるという予想外の危機に振り回されている。昨夜(3月18日)のプーチン演説にロシア国民は酔い、欧米諸国は比例して衝撃を受けている。是非はともかくとして、過去は暴かれる運命にある。それは同日、北京の法廷に日本財閥が引きずり出されることが確定したことも、日本人は深刻に受け止める必要があろう。日本の1%に戦後初めて法の裁きが下されるのだが、それは彼らが造り上げた国家主義の政権にも痛撃を浴びせることにもなるからである。



<三井・三菱の強制連行労働にメス>
 1972年の日中国交正常化以来、中国の法廷は個人レベルの戦争被害を法廷に持ち込むことを拒絶してきた。しかし、野田・安倍内閣の一連の中国敵視政策の強行に対して、遂に決断を下したのだ。
 中国人の強制連行・強制労働に対する損害賠償と謝罪を求める訴えを、首都・北京の法廷が受理したのだ。これの政治的経済的な意味は、きわめて深刻かつ重大なことである。
 日本の財閥は、日本国憲法のラチ外に置かれてきている。戦後の復活以来、法廷に引きずり出されることはなかった。なぜならば、政府のスポンサーだからで、実質、財閥の傀儡に過ぎなかったからである。
 現在の財閥、日本の1%は戦前のそれを規模・実力からして、はるかに強大で強力である。法の支配が及ばない。戦前は右翼に狙われたが、戦後は右翼を飼いならしてしまって、国内に敵はいない。
 その代表が三井・三菱である。安倍内閣を手玉にとって、原発や武器の輸出・集団的自衛権行使へと突進させている。その動きは急速で、国際社会に緊張をまき散らしている。特に中国と半島に深刻な事態を招来させている。
<財閥の歴史認識も俎上>
 問題は、安倍ら国家主義の面々と同様に、彼らもまた歴史認識が危うい。過去の侵略戦争と向き合っていない。
 最近の事例では、安倍の意向でNHK会長になった三井出身のモミイとかいう会長は、記者会見の場で「従軍慰安婦はどこにもあった」と発言、その恐ろしい歴史認識の一部を自ら披歴した。
 財閥はその豊富な資金力を政府を実質、コントロールすることで蓄積、それを政党・政治家・官僚・右翼・メディア・大学その他に配分して、政経のみならず教育・文化にまで影響力を行使してきた。この方面の研究は、悲しいことに皆無である。
 いうところの日本の右傾化の元凶も、元をただせば財閥の資金がモノを言っているのである。内外政策の全てに関与してきている、とあえて断定したい。
 彼らの正体を北京の法廷で暴かれる可能性が高い。これは日本人とアジアの人々にとって、人類にとっても有益である。
侵略戦争の元凶にメスが>
 戦前の軍国主義の元凶は、明治に政商、ついで財閥に育った日本の1%が、軍閥を実質コントロールしたことによる。政界も軍閥も彼らの資金が、政策推進の原動力となった。
 強制連行・強制労働は、財閥の意思に、時の政府・軍部が従ったものである。侵略戦争は財閥の意志であった。敗戦後に占領軍が、真っ先に財閥と軍閥を解体した理由である。
 筆者が海外の日本研究者と懇談していて不思議に思ったことは、こうした財閥の悪辣な行為を全く理解も認識もしていないことだった。それは日本国民も同様であるのだが。ここに日本の狂いがあったのだが、それが初めて外国の法廷で裁かれる。
 このことは日本・アジア・世界にとって画期的なことなのだ。
<新たな財閥の野望にもメス>
 日本財閥は高度経済成長で世界に打って出て、見事に成功を収めた。鎧兜を衣の下に隠して、日本とアジアに君臨、さらにバブル経済期には欧米にも手を伸ばした。
 バブル経済の崩壊で彼らの野望は挫折してしまったのだが、森内閣以降、舵を大きく右に切った。そして遂に国家主義の政権を手にして、次々と暴走を始めている。「戦争の出来る日本」への野望実現に走り出している。そこにもメスが入るだろう。
安倍内閣を支援・操る根幹をあぶり出す>
 安倍内閣をありとあらゆる方法を用いて支援する財閥の対応は、鎧兜で身を隠しているため、市民は見ることが出来ない。新聞テレビを封じ込んでしまっているからだ。
 それでも財閥の窓口である経団連の動向を子細に研究すれば、彼らの野心を見抜くことは簡単である。その根幹をあぶり出すことも容易だと信じたい。国家主義と財閥の一体化である。
 日本政府の不条理の全てが、財閥を解体することで解明されるであろう。その点で、北京法廷での審議は注目を集めることになる。
2014年3月19日9時10分記