本澤二郎の「日本の風景」(1108)

<欧米資本主義の崩壊>
 いまさら言及するまでもないだろう。とうの昔に欧米の資本主義は崩壊している。ソ連社会主義の崩壊に次いで、最後の砦となったアメリカンのカジノ経済崩壊が、欧州とアジアにも襲いかかっている。日本型・アジア型の経済システム構築の好機なのだが、そうした認識も対応も、ワシントンの召使そのものの野田内閣にも、自民党公明党にもない。むろん、創造性を基本的に喪失している霞が関にもない。


<戦争と大災害もその悪しき結果>
 シリアでの悲惨な内戦に人類は一喜一憂している。アサド政権が化学兵器の使用に踏み切るのではないか、と怯えている。この争いにしても、元凶は経済からきている。公正で、安定した市民生活が保証されない中での攻防戦だ。遠因はアメリカ資本主義の崩壊である。
 地球がバランスを崩して大暴れの状況にある。豪雨・突風・巨大台風などありとあらゆる想定外の自然災害の連鎖に人類は怯えている。命の不安に怯える市民生活を強いられている。
 地球温暖化は、いうまでもなく欧米資本主義の悪しき実績である。新たな経済システム構築を、大災害と戦争が人々にメッセージを発信している。これに気付こうとしない政府・自治体・議会の指導者は、人間失格であろう。
 公正な社会、特権層を排除する制度の構築である。共に生きる共生の論理を地球に降り注ぐ、今がその時である。
<公正・共生の経済社会へ>
 この新しい物差しに適合する社会を、どこが実践するのか。欧米にとって好機なのだが、未だその兆しは見えない。中国・インドにも。むろん、日本も、である。
 野田内閣に至っては、アメリカの召使となって原発再稼働・オスプレイ受け入れ強行と、全然いいところがない。10%消費税にしてもワシントンの言いつけに従属しているだけである。TPPもそうである。時代錯誤である。
 東京―ワシントンの悪しきパイプを大掃除する時が今だということが、まるでわかっていない。豚やドジョウのレベルでは、日本国民の生命・財産を守ることなど不可能だろう。
鉄道員が語る人間の最期>
 先日トレーニング・ジムでひと汗流した後の入浴中のことである。、近くで若者同士の会話が、まだ通用する筆者の耳に響いてきた。彼らは鉄道員、しかも1人はJRの運転手だ。JRの労働組合は今も平和運動に熱心なはずだ。中国の山奥に希望小学校をいくつも建設し、高い評価を受けている。盧溝橋の抗日戦争記念館の庭園に、筆者ともども平和の桜の木を植えてくれた。信頼できる労働組合だと筆者は、今も信じてきている。そんな事情もあって、つい若者同士の会話に割り込んでしまった。

 彼らに聞きたかったのは、鉄道事故が頻発していることへの彼らの思いと対応だった。世界一の正確時間を約束してきた日本の鉄道が、時々遅れる昨今だ。理由は人生をはかなんで命を捨てる市民が増加しているためだ。
 自殺する市民は、中曽根バブル崩壊後からぐんぐんと増えた。小泉内閣のころから、一層増加している。地球より重いはずの命を列車の車輪にささげる市民は、今も増えてきている。
 そのことに鉄道員は、どんな思いで向き合っているのか。36歳という運転士は「そろそろ職場を代えようと思っている。しかし、自分の今はこれしかないこともわかっている」「幸い、まだ飛び込みとはぶつかっていない。経験した先輩から、突然踏切に出てきて、引かれる寸前、自殺者は両手で拝みながら車輪に引かれて死んでゆく、と聞かされている」などと語ってくれた。
平和運動は人間の証し>
 彼はまだ幸運な運転士だった。もしも、そんな人間の悲壮な最期の目撃者、それも自分の運転する列車で、となったら、気の弱い人間はたまらないだろう。元の健全な精神に戻す方法などあろうはずがない。
 戦場に立たされる多くの兵士が精神を破壊されるのも、よくわかる。アメリカには病んだ元兵士が一杯いると聞く。イラク・アフガン・シリアにも一杯いるのであろう。
 非戦場の日本でも、実はやや同じような経験をする日本人がいるという事実を知る必要がある。彼ら鉄道員が安全と命に格別の思いを持つ理由も理解できる。彼らが、連合労組の多くが平和運動を放棄しても、それを大事にしている。そこには共生の思想が、自然に芽生えていることではないだろうか。
 平和運動は人間としての、ぎりぎりの証しなのである。恐らく、彼らは時間さえ都合がつけば、首相官邸に押し掛けて反原発の集会に出向いているだろう。
 悪しき政治の下で、人間は自立する。当たり前の人間はそうする。覚醒した市民が、公正な・共生の政治を誕生させる原動力になるのであろう。
 それが「東京の春」なのである。夢であってはならない。泉下の宇都宮徳馬がほほ笑んでいるのがわかる。
2012年7月25日9時55分記