本澤二郎の「政治評論」“亀井静香が吠える”

<野田は狂っている!民主党は選挙前に過半数を割る、アメリカの召使はNO、ネット選挙で倒幕は成功する>

 久しぶり四谷3丁目の亀井静香事務所を訪ねた。10%消費税に突っ込む野田内閣を批判して、自ら立ち上げた国民新党さえも離脱、野党議員となった“政界再編男”の近況を聞くためだ。素浪人になった今を、本人も周辺も坂本竜馬にたとえている。石原新党工作に振り回された場面もあったが、いまや「石原は文士。狼少年」と突き放す余裕をみせる。今回のインタビューは、さしずめ「竜馬吠える」といったところか?



<先を見ない愚かな元部下たち>
 ご存知、亀井は10%NOを与党内で、連立を組む民主党野田首相に激しく噛みついてきた。民意に反する大増税を、こともあろうに世界大不況下、しかも、大増税の前に為すべきことをしないで強行すれば、どうなるのか。警察官僚から自民党を歩いて新党を立ち上げた亀井でなくとも、その先が読める。10%引き上げても、深刻な年金福祉は変わらない。国民に新たな嘘をつく政治は許されるわけがない。
 連立解除を決断した。ところが、なんと後ろから仲間が鉄砲を打ってきた。これは彼の生涯の失敗だった。筆者が予想するに、こんな場合において血税である官房機密費が出動する。金だ。しかし、次の総選挙で100%落選する。筆者は「金に転ぶこともないだろう」と高をくくっていたのだが、実際は違った。
 政治家は金とポストで動く非理性的動物なのである。正義も正論も通用しない。今の代表・自見は元自民党中曽根派だ。沖縄の下地は、素性をみればどんな人物なのかわかりきっている。
 亀井は自ら立ち上げた国民新党を、自ら飛び出す形で決着を付けた。野田にしてやられたことになる。「仲間の教育が不十分だった。その責任を感じている。親子げんかは世間的にみっともいいものではない。まあ、(自見を)閣内に入れたりしたんだけどなあ」とやはり無念さは隠しきれない。利権で蠢く政治家を束ねる党首の座の厳しさを痛感したようだ。
 そもそも政治家の教育は不可能なのだ。政治家になる前に、とことん修業させるに尽きる。バッジを付けた後は無理なのだ。政治信条で行動する責任感のある政治家などいないのだから。
 要するに「与党にいることは居心地がいい。それだけだ」と吐き捨てる亀井である。改めて有権者は、愚か過ぎる人物が永田町を構成しているという現実を認識させられたのだ。
アメリカの召使>
 「野田内閣はアメリカの召使」と決めつける亀井の指摘は正解である。召使にとって「アメリカ任せ」「居心地がいい」からだ。しかし、独立国の指導者が外国の召使では、国民はたまったものではない。売国奴政権はいらない。
 亀井に召使の意味を具体的に説明を求めた。
 「歴史をさかのぼる必要がある。日本はアメリカに占領されて66年、67年になる。それでいて日本は、未だに独立していない。独立のフリをしてきた。講和条約は形だけ。建て前に過ぎなかった」
 こうした正論を吐ける政治家が誕生したことを、筆者として、まずもって多くの国民と共に歓迎したい。政治記者時代に筆者は、福田赳夫側近NO1の田中龍夫から「日本は独立国ではない」と耳打ちされた時、その理由が理解できなかった。戦後教育の悪しき成果に呑み込まれていたからだ。しかし、岸内閣誕生の秘話や中曽根内閣、小泉内閣を子細に分析すると、そのことを実感として受け止めることが出来る。ロッキード事件はその悲劇の実例だろう。亀井にしても、ことによると小泉内閣のころからではないだろうか。

 田中角栄の娘婿から「首相になる時、秘密の引き継ぎ事項がある」と聞いた時、それが何なのか、すぐに理解できなかった。ほとんどの国民は「日本は独立国」と理解しているだろう。学校教育の成果だ。日本に留学した外国人も、である。隣国の外交政策の狂いも生まれて当然だろう。召使の外交と対応する隣国などは、ワシントンとの駆け引きに勝たねばならない。
岸信介アメリカから召使手当を>
 60年安保世代の日本人は、A級戦犯容疑者の岸信介を知っている。安倍晋三の祖父だ。余談だが、晋三の実父・晋太郎に毎日新聞社は6億円もの巨費を献金していたと言う。旧福田派ベテラン秘書の証言である。ひどい新聞社の存在に驚き、あきれるばかりだ。
 「アメリカは戦後、日本の政治経済のみならず、日本人の精神面まで握ってしまった。敗戦後の衝撃もあって、日本政府はワシントンに唯々諾々と従ってきた。岸信介などはアメリカから金をもらっていた。25人の日本の為政者が召使費用をもらっていた。そんな連中が保守本流などとほざいて、アメリカのいいなりになってきた」
 召使の手当がどれくらいか、日本国民が気になるところであろう。アメリカに雇われてきた日本の政治家・官僚の無様な正体を、しかし、現在においても国民も外国の日本研究者さえも正確にわかっていない。まともな日本研究のない隣国外交というのも、嘆かわしい限りだ。
 「今も具体的な問題が浮上すると、必ずアメリカの選択に左右される。従って、そんな場合は相当の覚悟が求められる。そのことを初めてやった総理が鳩山だ。それにしても民主党の連中はひどい。鳩山も米国との波風が立っても屈せず、普天間の県外国外を主張して引き下がるべきではなかった」
<ワシントンに屈した政経塾・自公・NHKなどマスコミ>
 ワシントンの側に着いたのが、松下政経塾民主党だった。霞が関の官僚と自民・公明の野党も。そして何よりも、世論操作の最前線に立つNHKほかのマスコミだった。
 自立・独立しようとした鳩山内閣の足を、与野党霞が関・マスコミが引きずり下ろしたのである。こんな無様というよりも、滑稽なことが許されていいのだろうか。
 彼ら屈米派は鳩山を退陣させる一方で、小沢を政界から追放しようとした。それにマスコミと検察を動員した。法と証拠に従うはずの正義の検察が、その原則を踏み外して、政敵潰しにまい進し、世の中を振り回してきたここ数年だった。
 正論が大好きな公明・共産までもが、このCIA工作の先陣を買って出ていたのだから、これはもうマンガの世界であろう。
<反原発官邸デモは、時代が動く前兆>
 亀井は官邸包囲の反原発デモに参加した。驚いたのは、警備を官邸から指示されていた警視庁の機動隊・警察官ではなかったろうか。自由な市民の平和デモに機動隊を投入した野田に対して、市民の怒りは増幅、反原発デモは全国へと波及している。
 7月29日、東京・日比谷公園に20万人(主催者発表)の反原発市民が集まった。すごい数である。東電と国会を包囲した。亀井はこれらを「これは時代が動く前兆だ」と予測する。その輪の中に自らを投じて、膚で感じたのであろう。
 子供連れの母親らは「野田を倒すまで続ける」と意気込む。こんなことが、これまでの日本に存在したであろうか。明白な政治目標を持った、無数の市民の反政府・不服従運動はむろん史上初めてのことだ。
 反原発・反10%消費税・反オスプレイ・反TPPは連動している。無数の市民が命と生活を守ろうとして決起したのである。時代の黎明を告げるものだ。筆者は「東京の春」と呼べる政治経済社会変革と受け止めている。
 新聞テレビに対する真っ向からの反逆なのだ。4か月前の当初から報道していた「日刊ゲンダイ」には敬意を表すべきだろう。ちなみに鳩山が官邸包囲デモに参加したことに亀井は「間違いだ」と叱った。与党議員は与党内・官邸内で行動を起こすのが筋だと。
<ネット選挙が左右・怯える民主党議員>
 毎週の官邸包囲デモと代々木公園と日比谷公園での大集会と巨大デモの渦が日本を変えようとしている。それが「次の選挙に現れる。今の政治を変えることになる」と胸を張る亀井だ。
 そういえば、前回会ったのは連立与党の時だった。必死で消費税反対を叫んでいた頃である。精神と肉体の疲労を感じたのだが、今回はやや余裕を見せている。
 市民の意識変革に自信をみなぎらせているのである。「インターネットで動く市民が選挙をリードする。全国の何万という投票所に行く有権者にネット情報が飛んでいく。誰が10%賛成したか、原発再稼働に賛成したか。オスプレイはどうだったか。みなそうした情報で投票する。もはやこれを規制できない。投票率は上がる」というのだ。ありえない予測ではない。事実上のネット選挙なのだ。
 「既に民主党議員は選挙に怯えている。今後もぼろぼろと抜け出してゆく。そのうちに50とか60議席に落ち込む。選挙後の民自公の連立などありえない」とも断言した。
 「いつも来る岡田(副総理)に言ってやった。選挙敗北後をどうするか考えておけ、とね」
<間もなく竜馬になる>
 問題は、選挙後の始末である。反原発・反大増税・反オスプレイ・反TPPで1本に束ねる作業が、さしずめ亀井の仕事になるだろう。その点を自らも指摘した。
 倒幕・維新の、時代ががった過去を紹介しながら「サムライが中心になって公武合体・薩摩と長州の手を握らせる。そうして倒幕の勢力を結集させる。その中には野田を絶賛している橋下はなれない。石原は逗子に引っ込んでいる。私の仕事は身軽な竜馬のような立場を果たす」と民自公を幕府になぞらえる。
 総選挙前の行動は、というと、統一戦線づくりだという。「今から手順を作っている」ともいうのだ。
 一時、石原新党に情熱をかけた亀井である。「評判が悪すぎる。今もやっているのか」と問い正してみた。「まあ、石原は狼少年になってしまった。そもそも文士、小説を書いても、消しゴムで消したりする。ただ、死ぬ気で世の中を変えたい、それに命をかける、というものだからそれにほだされて。つい、つい」といって言葉を濁した。
<小沢は筋通した>
 「鳩山は民主党内で、小沢は脱藩して1国1城の主になって、野田を揺さぶり続けている。なかなかの作戦だ。役割分担している。誰が考えた策略なのか。
 亀井は「小沢は筋を通した。鳩山は物笑いの種になっている。しかし、みな分かってやっていることだ。鳩山は離党のタイミングを狙っている」と解説した、統一戦線に問題なし、といわぬばかりだ。
<4人の反原発派はすごい力>
 亀井は最近、民主党を離党した3人の反原発派の主役が、側近の亀井参院議員であるという事実を明かしたうえで「4人の反原発グループは大きな役割を担うだろう」と予言した。
 反原発で決起した4人組は、官邸包囲デモの影響を受けての結成である。反原発無党派の結集を予想させる動きではある。
 「最後はみな一緒になる。鳩山も小沢も、さらに。バラバラでは倒幕はできない。結束すれば簡単に倒せる。必ず、そうしてみせる」
<狂った野田首相
 今の野田内閣を亀井は「狂っている」といって一刀両断に切り捨てた。3・11の原発は今も収束などしていない。いい加減な原因究明でお茶を濁している。それでも再稼働に踏み切った。為すべきことをしないで、公約違反の10%消費大増税を強行している。
 危険な飛行物体であるオスプレイをワシントンに指令に屈して受け入れている野田である、どうしてなのか?国民の全てが疑問に思っている。
 吉田茂内閣はワシントンの再軍備をせよ、との厳命に「9条憲法に抵触する。第一、日本の経済復興が失敗する」といって反対を貫いた。野田は典型的なアメリカの召使になってしまった。
 そんな野田を「狂っている」と断じた。
 彼は尖閣問題に絡めて「自衛隊を出動させる」という趣旨の国会答弁を行った。これにも激しく噛みついた。「戦火を交えるなどという発言を首相は決して口にしてはならない。政治のイロハではないか。野田は完全にいかれている」
 いかれた首相を罷免する権利は主権者・国民にある。
2012年7月30日記(財界にっぽん2012年10月号掲載)