本澤二郎の「日本の風景」(1159)

<偶然の9・18中国訪問>
 格安航空券の都合で、9・18事変の当日夜に北京を訪問することになった。数か月前からの友人との約束を果たすためだ。実際は、もっと前か後の予定だったが、格安切符がとれない。いつも利用する安いデルタ航空の北京行き航空券が購入できなかった。満席なのだ。結局、日本機より少し安い中国機にしたのだが、空席日がたまたま9月18日だった。


 幸運なのか不運なのか、これは誰もわからない。今年は72年の国交正常化から数えて40年である。その共同宣言をした9月に間に合うことが出来た点は、やはりうれしい。本来、祝いのシンポジウムが行われる月だが、どうやら全く違う。友人の中には「突然、キャンセルされた」と肩を落としている。筆者にも声がかからない。やむなく、個人的な交流に応じるほかなかったのだが、これもわが東京都の慎太郎のお陰である。右翼三文文士を好きにはなれない。
 恩師の宇都宮徳馬がもっとも嫌った人物の一人だった。
 1週間ほどで戻る予定だが、いい記事は書けそうもない。中国の友人でさえ、こちらの身を案じてくれるほどなのだ。日系企業や中国駐在の日本人とその家族は、石原や野田に損害賠償をすることを考えてはどうか。
<旧福田派秘書の苦言>
 昨9月17日午前、元中野四郎代議士の中原義正が電話をしてきた。古巣の自民党総裁選に怒りをみなぎらせていた。彼もそうだが、筆者も年をとったせいかもしれない。お粗末な候補に声援する気力もない。
 財政を破綻させたことに対する反省も謝罪もない。それでいて「自分ならやれる」と表情だけは真剣である。野田並みに平気で嘘を突いている。信用など出来るはずもない。石原や安倍の祖父・父親を知る中原だから、批判は痛烈だった。彼の地獄耳を参考までに紹介したい。門外漢の批判とは一味違う。
海兵隊の日本防衛は嘘>
 防衛庁長官を歴任した途端、まるで軍事問題の専門家然として振舞っている石破にも容赦しない。彼が、よく口にする海兵隊のことだ。海兵隊の沖縄駐留のまやかしを暴くのだ。「沖縄・日本を守るという言い分は真っ赤な嘘」と断じる。
 「海兵隊は日本防衛のためではない。各地の紛争やアメリカ国民を救援するためにある。あるいは侵略するためのものだ。外に出てゆく軍隊で、外国の侵略を防御するものではない。日本を守るための軍隊では全くない。この軍事のイロハさえ石破はわかっていない」と真っ向から斬って捨てた。石破よ、どう答えるか?
<心のいやしい石原慎太郎
 彼は石原を「心がいやしい人物」とこき下ろした。「右手でセガレを自民党総裁選に出している。全く気が知れない。そもそもオヤジは、息子の器量を熟知している。本人が手を上げれば、やめろと止めるところ。石原はその逆だ。国士では全くない。本当に心がいやしい」と糾弾した。
 「息子を二人も政界に送り出すという、その心がさもしい」とも決めつける。一人は今落選中であるが、彼が考えていることは、出来の悪い息子を利用して国政を壟断しようとしている。許せない、と中原は怒るのだ。
 徳田虎雄との金のやり取りを、近くで見聞している人物の批判でもあろう。「左手では、大阪の橋下を抑え込んでいる。日本を占拠しようというのだ。大金を必要とする国会議員に、息子を二人も出そうとするいやしい心の持ち主ではないか。このことをマスコミはどうして書こうとしないのか」とマスコミにも批判の矛先を向ける。
<安倍は米国のいいなり>
 安倍が政権を投げ出したブザマな姿を、国民の多くはまだ記憶に残っている。普通の精神の持ち主であれば「総裁選に出られる心境にはないはずだ」と斬って捨てる。多くの国民の思いだろう。
 「それでいて、日米を強化するために出るという。日本を強い国にするのだという。ふざけるのもいい加減にしろ、といいたい。これ以上、アメリカのいいなりになって、日本をどうしようというのか」
 「アメリカにとっての日本は、単なる財布・ポケットではないのか。小泉をよく知っているが、この安倍の先輩はブッシュの前で、あろうことかプレスリーの真似をした。こんな情けない総理を見たことが無い。同じことを安倍はまたやろうと言うのか。恥を知れ、といいたい」
 彼は旧福田派のベテラン秘書としてワシントンと永田町・霞が関の不正・腐敗を見てきている。国民の稼ぎを、ワシントンに吸い上げられる自民党政治を目撃してきた人物である。
 もう日本に金はない。莫大な借金で泣いている。それでも雑巾を絞って出すと言うのか。金が無いので、自衛隊を米軍に差し出すつもりなのか。事情を知らない国民は「日米同盟の強化」とか「深化」と聞くと、なんとなく悪いイメージがしないらしい。しかし、政治のプロは違う。
尖閣地主は30億の借金?>
 尖閣保有しているとされる埼玉の人物を、石原に紹介した山東昭子の隠された正体にも詳しい。活字にするのは気が引けるので触れないことにするが、問題の人物は「事業に失敗して30億ほど借金していると聞いている。そのために、金額を釣り上げる工作を石原と一緒になって演じた」とまくしたてる。
 「そもそも尖閣は政府から払い下げた島。管理できなくなった時点で政府に返還しなければならない。それを20億5000万円で国に売った。詐欺ではないか」といって納得しない。
<中国の空母は米国衰退の証し>
 「もはやアメリカは世界の君主ではない。威信を喪失してしまっている。アメリカのリビア大使が殺されたばかりではないか。これはアメリカの権威が失墜している、何よりの証拠ではないか」
 確かに目下のイスラム圏での反米デモに、ワシントンは打つ手が無い。大統領が謝罪しても、騒ぎは収まらない。「ベトナム戦争に敗北、ついでイラク・アフガンも成功しなかった。それでいて今日まで存続したのは、ワシントンは日本のポケットを利用できたからではないか。それも9・11によって、世界の盟主の座を完全に失ってしまった。アメリカが弱くなったからこそ、中国が空母を作り、太平洋へと打って出てきたものだ。アメリカの衰退の証しではないか」「そもそも中国人はアメリカが大好きだ。アメリカは中国を侵略したことが無いからだ。イギリスと違う。だが、日本は地位低下したアメリカに服従する。日本はワシントンになめられている。それがどうしてわからないのか」と首をかしげるのだ。
 そういえば、自民党民主党の候補の全てが屈米派ばかりである。国士・中野四郎のもとで薫陶を受けた中原にとって、総裁候補の全てが不適格者というのである。どうやら永田町の歴史のわかる人物なら、筆者を含めて皆そう受け止めている。
<もっとも高価で危険な原発を即刻廃炉にせよ>
 原子力ムラの面々は「自然エネルギーを使用すると、電気代が高くなるが、それでもいいのか。ガスもそうだ」と原発ゼロに反論する。原発は安いと力説する。その先頭に立っているのが枝野だ。これほど説得力のない説明も珍しい。
 これにも中原の怒りは爆発した。「核廃棄物はどんどんと増えてゆく。しかも、これを処理する技術はない。子供・次世代にツケを回すことになる。子供にツケを回さないと言いながら、原発はツケを回す最たるものではないか」と。全くである。
 「ドイツは福島の教訓を学んだ。原発は採算が取れない。商業炉としては一番高い発電所。これは即止めないと、子孫にツケを回すことになる」正論であろう。
経済産業省財務省も潰せ>
 原子力ムラの中枢は経済産業省である。もっとも高くて、もっとも危険な原発を建設、ツケを子孫に回している。同時に、世界一高い電力を日本国民に押し付けてきた。その姿勢を変えようとしていない。
 先の政府の新エネルギー政策は、抜け道・抜け穴だらけの代物である。それは10%消費税を福祉に回すといいながら、その実、公共事業にも使おうとしている同じ手口だ。こんな経済産業省を潰せばいい。次いで財務省も潰すと、日本は変わる、と中原は訴えている。
 「そもそも財務省は単なる数字合わせの仕事をしている役所だ。実際は東大法学部だ。数字など分からない面々だ。とうとう日本を借金の山で日本を潰そうとしている。こんな財務省も潰す必要がある」とその主張は真剣である。
<二号の子供が永田町に>
 日本は自由で民主的な政治制度を採用している。日本国籍を持っていれば、誰でも選挙に出ることが出来る。当選すれば、政治家・国会議員になれるのである。しかし、一方でやっかみめいた差別も存在するようだ。
 筆者も現役の政治記者時代にそれらしき差別を聞かされたものである。たとえば「某実力者の娘の旦那は黒人」などと吹聴して相手のイメージダウンをはかるのだ。どうでもいいことだが、ライバル同士になると、相手の頭のてっぺんから足の底まで暴きたてて楽しむ風潮が、この永田町にはある。
 中原によると、政界には「2号の息子が政治家になっている例が少なくない」というのだ。もちろん、一向に構わないのだが、えてして本妻の子供よりもお妾さんの息子の方が、人間の出来がいいからだろう。確か笹川良一という右翼の親玉の息子が国会議員になったことがある。彼に取材すると、本人が2号の息子だと口にした時は驚いた。同時に隠しだてをしない勇気に敬意を払ったものだ。
 「ある人物は政治家になる前に行商をしていた。そこで知り合った農家の未亡人と関係して生まれた子が、いま2世議員として羽振りがいい」とは中原の解説である。知らないことだった。本妻意外に子供を持つ、という風習は今も続いているのだろうか。
 「政治家の娘婿が、いま国会議員になっているが、彼は父親の国会議員の妾の子供だ」というのだ。随分とややこしいのだが、ことほど日本の政治家の窓は大きく広がっていて、見方によってはすばらしい。倫理観は問われる。
 問題は、当事者が心に深い傷を負っているとなると、政治にゆがみが出てくることもありうる。この点を有権者はしかと見定める必要があろう。これまでの筆者の取材では、全く気付かない世界のことだったが、大阪に面白い人物が現れて以来、友人に指摘されて少しばかり興味を示すと、実は永田町に沢山いるらしいことがわかった。これはある種の国際化との指摘も成り立つ。
 それにしても政権与党の中枢で秘書稼業に精を出してきた人物の情報は、あきれるほど深い。石原を手玉に取れる理由なのだ。
2012年9月18日5時10分記