本澤二郎の「日本の風景」(1193)

<家庭を直撃しているフリーター問題>
 働き盛りの子供を持つ家庭の深刻な悩みをご存知だろうか。若者の失業くらい悲劇的なことはない。定職を持たないアルバイター・フリーターだ。子育てどころの話ではない。結婚さえ出来ない。無理に結婚しても子育てが出来ない。すぐに離婚するだろう。非正規社員も、この後に続く。会社の都合で、即座に首を切られるからである。こうした家庭・家族はどれくらいだろうか。当局は怖くて調査しないだろう。ことほど、その数は多いのだ。


 不安の時代の象徴的な家庭ではないだろうか。油断するしないにかかわらず、こうした環境は家庭崩壊の原因ともなろう。時には、家庭内暴力の遠因にもなりうる。憲法が求める勤労の義務・職業の選択の自由も、フリーターが多く見られる社会では、絵にかいた餅ではないか。
 問題は、こうした深刻な事態を厚生労働省の役人も政党・政治家、特に政権与党と野党第1党の自民党にも、認識が余りにも薄いことである。彼らは血税をたらふく財布に入れている輩である。筆者が報酬の半減を主張する理由だ。そうなれば、彼らも一般家庭の目線でフリーター問題に真正面から取り組むはずだから。
 この問題を提起してくれたのは、東京都民のMさんである。多くの家庭の悩みごとである。政治を変えればいいのだ。そもそも民主党自民党に多数の議席を与えている有権者・国民に問題があるのである。
<元凶は中曽根バブル>
 解決を見出すためには、原因を探り当てておく必要がある。ご存知、80年代の日本は、終身雇用制がおおむね定着していた。経済大国が、それを可能にした。だが、「日本列島は不沈空母」とワシントンにひれ伏した中曽根内閣は、円高ドル安政策(85年のプラザ合意)を受け入れて、バブル経済へと舵を切った。90年に泡ははじけて消えた。
 バブル崩壊の損失は実に1500兆円に及ぶ。財閥金融機関には公的資金小泉内閣)が投入、救済されたが、多くのサラリーマンが首になり、首を吊った。中小企業倒産の悲劇は数知れなかった。
 90年代から労働環境は一変することになる。労働者の人権が侵害される時代の到来である。連合など労働組合の与党化・体制化がマイナスに働く。幹部の貴族化も。悲しいことだが、中曽根バブル同様に、巨大借金の反省はいまだ当局からも、自民党からもなされていない。
<小泉―竹中の新自由主義経済が後押し>
 小泉内閣の経済政策が、さらに追い打ちをかけた。主役は、ワシントンのポチでもあった竹中平蔵、小泉の経済指南役は先輩の東芝(三井住友財閥傘下)OB、そして新興財閥のオリックスの宮内らだ。
 いうところの新自由主義経済政策である。これが日本社会を格差社会へと追い込んでしまった悪政の最たるものである。強いもの、すなわち財閥主導の経済政策である。これによって竹中・小泉らは莫大な蓄財をした、と指摘されている。
 中国では、天津・北京・重慶を舞台に法外な蓄財をした薄一族が失脚したが、東京でも同じような事例はあるかもしれない。スイス銀行ケイマン諸島の秘密口座が公開される日が、1日も早く訪れることを祈りたい。悪人のドブさらいは、喫緊の課題なのだ。
<ジャングル・弱肉強食の経済>
 閉そく感の打破という巧妙な言語の乱発を悪用して、新自由主義経済は日本社会を包囲してしまった。企業は労働者をいつでも自由に辞めさせるという制度を構築した。
 非正規社員が大量に生まれた。他方で、正規社員に対して、重い責任を課した。この非正規社員化がフリーターを増大させる。
 弱肉強食の経済・ジャングル経済だ。労働者全てをジャングルに追い込んで、そこで死闘を演じさせる。ライオンになれない者は死を待つのみだ。精神疾患が蔓延するだろう。自殺を選択するものも、突然死する者も出てくる。
 恐らく、ここまでマルクスが思い描いていたであろうか。一見、法治で守られている現代だ。服装もよくなった。だが、精神はボロボロだ。落馬するものはフリーターの世界へと自らを追い込む。その悲劇を周囲はわかってくれない。
 労働者の人権が侵害されている社会だ。奴隷社会そのものである。日本の格差は、富裕層がアメリカに次いで2位ということからも裏付けられている。そこでは、異常・異様な犯罪が発生することになろう。
 嘘つき・詐欺の横行社会だ。首相自ら大嘘つきの日本である。嘘つきは泥棒の始まりという。10%消費大増税は、国民の財布からまんまと泥棒しようという魂胆だろう。奴隷根性の日本人からの脱却が急がれる。
<互譲・思いやり制度>
 どうするか。資本主義社会を、革命によって政権を転覆させる?これはマルクス流だ。こんな野蛮な手段は平和国民にとってNOである。制度を変えればいい。
 お互いを思いやる政治によって、それは可能である。今の日本の資本主義は、財閥資本主義だ。もっと正確に言うと、財閥と官僚の、すなわち財閥官僚資本主義である。
 国民・市民主役の資本主義経済にするのである。それは社会主義の公正・平等の原則を加味するのである。思いやり・互譲の原則を導入すれば、事態は大きく変わる。
 現在、1人でやっている仕事を2人、3人でやるのである。賃金は下がる。しかし、労働時間は大きく短縮できる。余暇の時間を労働者は、有効に使える人間主体の生活を取り戻すことが出来る。
<北欧で成功>
 既に北欧では実践している。成功している。世界でもっとも豊かで安定した地域として、世界から認知されている。
 富裕層の存在を排除している。人々はほどほどの生活に満足している。少ない労働時間が、人々の生活を豊かにしているのである。およそ新自由主義経済は無縁である。社会主義のいいところを拝借している。
 各国とも、この北欧主義を採用すればいい。悪徳な財閥の存在は許されない。
<韓国では財閥退治>
 言及するまでもない。多くの資本主義国の主役は、財閥である。財閥が政治・政策の根幹を握っている。財閥の意向は、官僚・官閥によって具体化される。
ここに強欲資本が成立する。外交政策もまた、財閥が推進している。
 武器弾薬利権もまた、財閥のものであるのだから、当然と言えば当然である。中小企業は、財閥が食い荒らしたおこぼれをいただいている。ライオンが食べ残した肉をハイエナが食らいつく。まさにジャングル経済・弱肉強食の資本主義経済である。
 この問題が大統領選挙の争点になっているのが、韓国である。野党はジャングル経済・財閥暴走経済に「メスを入れる」と公約して、12月の大統領選挙戦を戦っている。
 日本では想像出来ないくらいだ。日本では、財閥という言葉さえ活字にできない。使用を自粛しているマスコミである。財閥の傘下に入ってしまっている日本のマスコミなのだ。言論の自由がどういうものか、この1点で理解出来るだろう。日本も腐ったリンゴなのだ。
 韓国の方が、はるかに民主主義国なのだ。韓国の検察は大統領府にまで捜索の手を伸ばそうとして、大統領家族の土地購入不正事件を暴こうとしている。司法の分野も、はるかに民主的なのだ。
<Mさんの怒り>
 手元に、昨日届いたMさんの切実な問題提起メモがある。
「最近、常に考えているのは、急増するフリーター問題です。これら非正規雇用労働の若者の多くが、ワーキングプアー・低賃金・低技能で、将来の社会問題になろうとしています」
「昨今の厳しい経済情勢のもとで、雇用の調整弁としてのフリーターの増大は、従来の学校から職場へと雇用制度のリンケージの崩壊を物語っています。職業的技能を付与しない社会、社会保障制度の脆弱さを考慮すると、これは深刻すぎないだろうか」
「雇用の拡大・若年雇用の安定化・無償の職業訓練など国レベルのアプローチと改革が、是非とも必要です」

 公正公平な社会にするための、政治変革を求めるしか打つ手はない。既に金曜日の夕刻から「野田退治」デモが、首相官邸を包囲する形で行われている。東京都は、彼ら彼女ら覚醒したデモ規制に熱心だ。日比谷公園の使用を禁じている。それでも先週の金曜日には、雨天にもかかわらず、1万人が野田追放を叫んだ。変革のエネルギーの源泉は、インターネットである。
 市民の覚醒を物語るすばらしい決起である。奴隷から自立しようという日本人が、庶民レベルに到達したのである。恐らくMさんもその一人かもしれない。

 自分で出来る最大の方法で声を出し、行動することでしか、世の中を明るく前進させることは出来ない。
2012年11月13日9時45分記