本澤二郎の「日本の風景」(1234)

小選挙区制と小沢一郎
 いま小沢一郎は新たな壁に苦悶しているのではないだろうか。壁とは小選挙区制のことである。もっとも、民意を反映しない選挙制度のことである。この最悪の制度の導入者は、誰であろうか。それは小沢本人だったのだから。今回の総選挙結果は、投票率が60%を割った。投票者の半分以上の1票が議席に反映されない死に票になってしまった。自民党はわずかな生き票の3割にも達しなかった。それでいて300議席だ。この異様・異常さについて、誰も問題にしない日本なのである。有権者の1割足らずの支持しか受けていない安倍・極右政権の暴走が始まった。その責任が小沢の肩にかかっている。自民党勝利の陰の立役者は小沢だった。


宮澤喜一内閣を追い込んだ政治改革論>
 93年のことである。リベラル政権の宮澤内閣を小沢は潰しにかかった。それが政治改革という怪しげな手法で、世論を扇動してゆく。この場面で、小沢やマスコミ・御用評論家・財界は一体となって「政治改革」を叫んだ。
 これに宮澤は翻弄されてしまった。彼は自衛隊派兵のPKO法を、無理やり成立させられてしまった。確か背後で、小沢と公明の市川の、いわゆる一一ラインが作動していた。平和主義・護憲の宮澤は、煮え湯を飲まされたのだ。PKOから自衛隊の派兵は正当化されてゆく。
 当時、飛ぶ鳥落とす勢いの金丸信の庇護を受けていた小沢は、やりたい放題だった。それにマスコミが味方していた。この場面で金丸の事務所から金塊が捜査当局によって見つかった。93年3月ごろだろう。
 同月米国務省の招待を受けて1日100ドル生活をしながら、全米を回っていた。その実、読売改憲論など日本右翼の取材を敢行していた。金丸金塊は、雪の降る空港で案内役のバレットが、ニューヨークタイムズの小さな記事を見せてくれた。
 いま考えると、金丸撃沈が小沢の宮澤倒しだったのかもしれない。
<マスコミは小沢の味方>
 この小沢の政治改革論に朝日の小沢番などが大活躍していたらしい。東大の御用学者を動員した、民間の政治臨調なる怪しげな機関も、一役買っていた。政治を動かす際の宣伝塔には、すべからく大馬鹿な東大教授が動員される。日本の悪しき文化である。
 この3年間のマスコミは、小沢悪人論を流し続けてきた。小沢を監獄に入れようと必死だった。検察とマスコミ演出の小沢悪人論に、筆者は「それはないだろう」と小沢弁護に変わった。判官びいきは、世の常である。彼の日本自立論とアジア重視論にも賛同したからである。
 93年のマスコミは、小沢の政治改革論はマスコミとの連動で世論を喚起していた。それに宮澤は屈してしまった。解散に追い込んだ小沢の手によって、細川内閣が誕生した。小沢の天下となった。
細川護煕内閣の誕生>
 何故、小沢は細川を担いだのか?まだ一部の国民の間に残る皇室への愛着である。政治は皇室を利用するものなのである。形式的なものだ。心底尊崇しているわけではない。国民向けに、そうした形式を踏んでいるだけである。
 当然だろう。人間は皆同じ血が流れている。部落や在日を卑下する人間は、自己を否定しているだけである。そもそもこうした用語に嫌悪感を抱く。人間は対等・平等だ。出自は関係が無い。
 しかし、人間は差別を求めるおぞましい生き物でもある。案の定、細川ブームが起きた。松下政経塾の多くは、この輪の中にもぐりこんでバッジをつけた。利用できるものは何でも、が世の常である。
 小沢は細川を利用して天下をとって、当時の彼の悲願である小選挙区制を導入した。
河野洋平土井たか子
 この制度は、旧内務官僚が悲願としてきた選挙制度である。右翼議員の目的であった。これで議会に、改憲のための3分の2の議席を確保する策略なのだ。安倍の祖父・A級戦犯容疑者の岸信介の悲願でもあった。
 小沢の実父は岸に近かった。そんな関係もあったのかもしれない。一部の民意で3分の2の議席を確保して、日本を戦前のような戦争国家に改造しようという極右の野望である。いま安倍は祖父の野望を実現したい、そうわめいて自民党総裁、そして昨日首相に就任した。という事実を報道しないマスコミなのだから、こうして真実を書かねばならなくなる筆者である。
 遺言として記録している。
 小沢に操られた細川は、当時の自民党総裁河野洋平衆院議長の土井たか子を実現のために巻き込んだ。二人ともリベラルだが、この場面ではそうした弱さが災いした。この二人は、小沢の仕組んだ輪の中にはまり込んでしまった。
 筆者は93年の時点で二人への好ましい評価を止めた。小選挙区制は小沢・細川・土井・河野が主役となって誕生したものである。 
小選挙区制は腐敗を生む>
 そのころ、勇気ある出版人で知られたエール出版の渡辺勤が「小選挙区制は腐敗を生む」を書いてほしいと要請してきた。自民党内にも反対派は多かった。取材は苦労しなくて済んだ。
 この本をナベツネの前の読売政治部長だった多田実が、ひどく誉めてくれた。彼が読売の編集権を握ってくれていれば、改憲新聞は存在しなかった。ナベツネは右翼の児玉誉士夫中曽根康弘、そしてワシントン人脈を踏み台にして、リベラルな多田を排除して実権を握ってしまった。むろん、そうした読売の内実など、当時は知る由もなかったのだが。
 一人、小選挙区制を批判して気を吐いていたものだが、世の流れは小選挙区制実現へ向かって行った。警鐘を鳴らすべきジャーナリズム不存在の日本は、戦前も戦後も変わっていない。財閥の金で動く。財閥は電通を使って編集権をはく奪する。
 こうした常識を知らない中国の学者ばかりという現実に、筆者は訪中して何度も経験させられている。「己を知り、敵を知れば、百戦危うからず」とは孫子の兵法を読んでいない者でもわかる。
 人間は自己の「無知の知」さえ気付かない。いわんや相手さえ知らない。そこに争いの落とし穴が開いている。尖閣問題などは、その好例ではないだろうか。40年前の中国を探そうとしても、地球のどこを探してもない。石原の中国観は40年以上前の中国である。その石原を支持する日本人の頭脳の愚かさを、測定する物差しなどない。そんな石原後継者を知事に担いだ400万人の東京都民が、現実に今存在する。
 狂気が乱舞している。その中核が自民党公明党ということなのである。
<教訓を学ばない日本人>
 要するに、何をいいたいのかというと、日本人は小沢を含めて教訓を学ばない、教訓を現在と未来に生かせないのだ。愚民と言われる東大の大馬鹿教授のなかに、誰か反論できるだろうか。
 学習院の麻生は、既に大失敗したバラマキ公共事業のために国債の大量発行を続けると、早くも公言している。安倍は、日銀の輪転機を回して「景気を良くする」という浜田とかいうイカサマ師の狂言に乗せられている。これに外国の投資家が大量の円売り・日本株買い占めをして、意図的に円安と株高を演出している。
 彼らは、これを大量に売りさばくことでぼろ儲けする。大株安の時点で日本の優良企業の株を買い占めて、買収してしまうのである。これに安倍も麻生も熱狂している。
 茂木とかいう大臣は、早々に「原発ゼロ」の方針を見直して、続原発政策を推進すると、初閣議後の会見で発言したという。第2の福島へと突進するというのである。
 教訓を学ばない日本人の典型が、今の安倍内閣ということなのであろう?
2012年12月26日11時00分記