本澤二郎の「日本の風景」(1273)

アベノミクス
 俳優大統領のレ―ガンの経済政策を、ワシントンのマスコミは「レーガノミクス」と喧伝し、それが東京やロンドン、世界各国の共通語になった。これを乱用して安倍側近がマスコミに売り込んだのだろう。アベノミクスを世界に発信するのに躍起だ。この名称の売り込みからして、いかにこの政権が子供じみているかがわかろうというものだ。我が国のメディアの無定見な宣伝に、議会でも通用し始めたらしい。2月7日の衆院予算委員会で、これが追及されることになった。


レーガノミクス
 思い出すと、日本が経済大国の座を滑り落ちた元凶は、円高ドル安政策を強力に推進したからである。この円高ドル安政策がレーガノミクスの中核をなしていた。
 ロンヤスの日米同盟という活字が、マスコミで踊った。右翼の政治屋やメディアは、この日米同盟という言葉に異様とも思える愛着を示す。自立できない日本を裏付けるものだが、彼らは戦前の国粋主義に恥ずかしさやためらいを抱こうとしない。
 自民党には、本来これら天皇国家主義派に対して、リベラル・国際派が存在して国民の支持を得てきた。現在は、このリベラル派の姿が見えない。極右が跋扈する自民党、そこに金魚のフンのようにまとわりつく宗教政党の連立政権という構造である。
<対立の政治路線>
 レーガン政権は、その一方でソ連との核軍拡競争に必死となり、ソ連解体へと持ち込んだ。ワシントンのネオコン勢力は、現在も生き延びている。安倍内閣利用に長けている。

 レーガノミクスは敵をつくり、対決することで政権を存続させるという危険な政治手法が特徴だ。安倍にもそれが感じられる。野田を上回っている。これが隣国との対立の構造的要因なのだ。隣国との対立をカバーするために、やたら日米同盟を連発することになる。これを改憲軍拡世論作りの右翼マスコミが、人々の脳を改造している、それが今なのである。
<繰り返す歴史>
 日本の中曽根内閣は、レーガノミクスを受け入れて、円札を輪転機にかけて刷りまくった。その行き先は株と土地だった。バブル・泡を人工的につくりだしたのである。4年ほど人々は浮かれた。東京の銀座は酒池肉林そのものとなった。だが崩壊すると、銀行や不動産・証券など、バブルに踊った企業が破綻した。消失金額は1500兆円。
 多くの市民が自殺し、沢山の会社員が解雇された。ところが、財閥銀行は生き延びた。血税を投入したからである。犯人は小泉と竹中だ。この小泉内閣で政府や自民党の中枢で働いたのが、安倍である。この時の人脈が復活した自民・公明の連立政権ということになる。
 これが偽らざる安倍内閣の正体である。危険きわまりない安倍路線をけん制しないマスコミによって、日本の政治も経済も怪しく破綻に向かっている。歴史は繰り返される。
<貨幣現象>
 その一つが露呈した予算委員会となった。安倍首相に松下政経塾の優等生と見られていた前原が質問に立った。
 前原はデフレが構造的な要因で起きているという当たり前の事実を指摘したのだが、なんと安倍は開き直り、アメリカで狂った経済を学んできた浜田とかいう人物の説で押し切った。
 「デフレは貨幣現象だ」と断じた。これまた子供じみてかわいいのだが、こんな路線に引きずり込まれる市民は哀れである。各国に中央銀行が存在する。そこで紙幣は印刷される。安定した経済・物価の番人として政治とは独立していることが、何よりも重要である。
 円札は市場にあふれている。これまでの金融緩和政策を推進してきた結果である。財閥は200兆、300兆の資金を保有している。儲け口が見つかれば、いつでも投資する態勢にある。
 人々の需要があれば、世界の資本は動き出す。グローバル時代だ。だが、その投資先が見つからない。やむなく現在の投資先を、コストの安い地域に移転させることぐらいなのだ。
 競争力を高めることに現地生産を開始して久しい。車もテレビも何もかもが。雇用の喪失は止まらない。あり余る資本の行き場のない日本だ。そこへと安い商品が世界から入り込む。
 デフレ経済下の日本人の多くは安いモノに目を向ける。自然の流れは世界各国共通する現象である。
<脳の病>
 安倍はしかし、貨幣現象で経済が動く。そのために日銀の独立を排除して、円を刷りまくる。円の価値を下げる。円の価値を下げると、輸入品はがんがん値上がりする。
 庶民の懐はさらにきつくなる。インフレ下の大不況へと突き進む。これはハイパーインフレを引き起こすことになる。車を買うどころではない。ガソリン代金に庶民は、車を手離すしかないだろう。要するに、円札刷りで円の価値を人工的に引き下げると、ものすごい副作用が起きる。
 市民生活も破綻する。社会は混乱する。ギリシャのように年金生活者は自殺に追い込まれ、人々は暴力に走るだろう。北アフリカで起きている事態が、日本でも発生する。医療福祉全てが狂いだす。
 それに蓋をする悪魔の政治が、隣国との戦争状態を作り出すことになる。以上のような予測は、多くの市民が共有できるだろう。それをやり抜くという安倍の脳みそは腐っていると言わざるを得ない。
<前原質問に改憲軍拡批判なし>
 前原質問で気になったことは、彼の専門は改憲軍拡論である。松下政経塾の得意とする危険な分野だ。リベラル・平和主義が欠落している。筆者が野田内閣を批判し続けてきた理由である。
 従来の論法を使用すると、それは防衛族ということになる。海外での自衛隊活用派だ。武器弾薬の強化路線である。隣国との対決に目が向く危険人物だ。すなわち、安倍と同じ仲間なのである。
 前原は防衛に詳しい。そこから安倍の改憲軍拡論を批判すれば、まともな政治家になれるのだが、それがない。
<軍事利権に屈する政治屋
 軍事利権は闇の世界だ。土建利権と異なる。外からは見えない。いいなりの金額で決まる、もっともおいしい分野だ。旧松下だけでなく、多くの企業が手を出している。
 軍事利権に手を出す政治家は、政治屋と呼んだ方が適切である。日本国憲法の精神を投げ捨てている面々だ。憲法順守という憲法に違反している政治屋でもある。
 安倍も前原も、同じ穴の狢ではないのか。そのせいで、安倍追及は実に甘いものとなった。それにしてもデフレを「貨幣現象」と言い張る安倍を首相に担いだ日本人は、野田に輪をかけて厳しい事態に追い込まれることになろう。
2013年2月8日11時10分記