本澤二郎の「日本の風景」(1282)

靖国参拝と主権回復の日が意味するもの>
 在京の外国特派員が、安倍内閣靖国参拝と主権回復の日について、以下の取材をしてきた。この二つは、文字通り安倍政権の特徴を象徴する事例である。過去に靖国参拝を強行した中曽根内閣、小泉内閣が存在したが、これに憲法改悪、戦争の出来る日本に改造するという政策を掲げた政権は、戦後の日本政治で初めてのことだ。極右政権そのものであろう。だが、不甲斐ないことに、新聞テレビはこのことを強く批判することを避けている。4月24日夕刻、たまたま田植えの始まった房総半島から車で上京している時にNHKラジオの解説を聞いてしまったのだが、それは尖閣周辺への中国船の行動を一方的に非難するものだった。そうした行動の背景となっている、安倍内閣の挑発的靖国参拝に全く触れなかった。偏向報道・片手落ちであろう。


靖国参拝の目的>

Q、安倍内閣閣僚と国会議員の参拝は、どんな目的がありますか。また、この「参拝」を誰に見せようとしていますか。

A、極右政権を印象付けている。靖国神社は、戦前の国家体制である天皇国家主義の象徴である。天皇侵略戦争に命を捧げた死者を弔う役割を担っている神社神道の中心的地位を占めている。そこに参拝することは、過去の侵略戦争を肯定、もしくは正当化させる、すぐれて歴史認識の問題でもある。天皇国家主義復権が彼らの野望といえよう。無知な国民を教育しようとしている。

Q、安倍さんは昨年暮れに首相になったさい、「これからは中国、韓国との関係を改善したい」といいましたが、今回の参拝によって、日中・日韓関係が悪化する可能性がでるかもしれません。

A、政治家は嘘をつく。言葉で誤魔化されてはいけない。既に石原慎太郎の音頭で尖閣(釣魚島)問題が、日中間で大きな争いごとになっている。この問題は日米の右翼が挑発したものだ。どうして寝ていた子を起こしたのか。それは隣国との緊張を煽ることで、無知な国民を民族主義化することで、悲願の平和憲法戦争放棄の9条改悪を狙っていると理解出来るだろう。
 靖国参拝は隣国の深い傷に塩を擦り込むことになり、当然反発が生じる。緊張状態を作り出すことも尖閣問題と同じ効果が期待できるからだと理解できる。
 9条改憲こそが天皇国家主義復権に必要だからだ。

Q、安倍さんは参拝しなかったが、靖国神社に供え物を奉納した。また、参院予算委員会で、閣僚の参拝を容認する考えを示唆した。これについて、どう思いますか。また、安倍さんはどんな状況で、自ら靖国に行くと思いますか。

A、目の前の参院選勝利が、当面する安倍内閣の思惑のためだ。安倍は選挙後の8・15参拝を強行すると見られている。彼の側近である自民党幹部は、既に8・15参拝を敢行するだろうと述べている。彼の祖父はA級戦犯容疑者。祖父の同僚が祀られている靖国参拝に異様な執念を見せている。今回の参拝者はいずれも安倍側近。8・15の露払いという任務を帯びている。隣国の反応を測定しているのではないか。

Q、日中、日韓関係を改善するために、これから安倍政権は何をすべきか、とくに歴史問題のことで、考えを聞かせていただきたい。

A、その前に、一つ尖閣靖国参拝についての安倍の誤算は、ワシントンの反応である。ホワイトハウス国務省は、中国を重視している。従って、日中間のもめごとは米中関係にマイナスである、と認識している。安倍はワシントンのネオコン・産軍複合体と連携して、改憲軍拡の流れを本物にしようとしていることだ。昨日は安倍の意向を受けて教科書の改悪にも踏み出そうとしていることが、自民党内で表面化してきている。歴史の逆転に政治生命をかけた政権である。

<主権回復の日>

Q、自民党は主権回復の日を設立する目的を教えていただきたい。

A、途方もない計画にとてもびっくりしている国民が多いと思う。沖縄県民は屈辱の日と呼んでいる。米軍基地の永続化、形を変えた米支配を正当化させようとするもので、これはワシントンの右派の意向も受けているように思えるのだが。

Q、主権回復の日の設立は、自民党が唱えている「憲法改正」とは、何か関係がありますか。

A、リベラルな政府では考えられない発想である。自民党は自主憲法の制定を打ち出して、戦争の出来る日本に改造しようとしている。靖国もそうだが、これもその一環と見られる。極右政権の野望の一つだ。主権回復に応じた憲法改悪キャンペーンに利用しようというのだろう。とても危険な動きである。

Q、「主権回復の日は、軍国主義の復活、国家主義の強調に繋いでいる」という見方に対してはどう思いますか。

A、狙いはそこにある。天皇国家主義復権ともいえる。戦前回帰でもある。極右の塩を送る財閥のことを忘れてはならない。

Q、沖縄は主権回復の日について、強く反発しています。

A、当然のことながら、沖縄はそれと引き換えに米軍基地の島になって今日を迎えている。耐えがたい屈辱の島として固定化している。ワシントンの不条理の典型例だ。

Q、主権回復の日を設立することによって、日本はこれからも領土問題で「一歩も譲らない」という意識を反映させる?
 
A、歴史認識靖国参拝憲法改悪という国家主義者の思惑と宣伝が全て集約されているように思われる。日本国民もアジア諸国民も重大な関心と批判を繰り広げる必要があるだろう。72年の日中国交回復は、アジアの平和と安定の基礎という認識を、彼らはぶち壊そうとしているからだ。

2013年4月25日7時45分記