本澤二郎の「日本の風景」(1325)

安倍晋三VS田中均
 5人の拉致被害者北朝鮮に約束通り戻すべきだ、戻さないで、当時の小泉内閣で繰り広げられた秘事が、いま表面化している。結局のところ、政府は火種を残す選択をした。約束に反して「戻さなかった」ことが、その後の北との交渉を暗礁に乗り上げさせてしまった。当時、外務省の田中均は「戻すべきだと反対した」と安倍が、鬼の首を取ったかのように会員制交流サイトで発信。これに対して、負けまいとして田中が反論(6月24日講演)している。


 首相(当時、内閣官房副長官)と元外務審議官の攻防戦の行方は、興味深い内容である。国会の場でも火がつくだろう。
 筆者はこの問題で、自民党の警察官僚OBの講演を聞いたことがある。彼も「外交上の約束を破った小泉内閣に問題がある」と指摘した。要するに、せっかく拉致を認め、一端、北に戻す約束させた上で5人を日本に一時帰国させた北朝鮮である。重要なことは、双方に信頼関係が生まれていた証拠である。
 約束通りにしていれば、この問題は一気に解決へと突き進んだはずである。田中の外交官としての当然過ぎる立場だった。しかし、あえて北との信頼を裏切る選択を、小泉と安倍は強行してしまった。
 そのことが、拉致解決を今日まで引きずる原因となっている。非は安倍の側にある。新たな日本不信を植え付けてしまったからだ。当時の細かいやり取りを知る面々は、田中の立場を支持しているだろう。
<リベラルは事務次官になれない霞が関
 日朝関係のトラブルメーカーは安倍、小泉である。その安倍が、先に飯島を訪朝させて下工作、参院選前に自ら訪朝して凱歌を上げようとした。北も新体制である。
 しかしながら、数年前の約束破りの安倍の前科を忘れてはいなかった。飯島が平壌に着いた場面を、内外のマスコミに公開して安倍の目論見を暴露した。黒子・密使の浮上にワシントン・北京・ソウルが驚愕した。ただでさえナショナリスト政権を信用していないホワイトハウスである。
 こうした経緯を詳細に知る元外務審議官が、安倍を信用していないワシントンの真実を、毎日新聞で暴露した。これに衝撃を受けた安倍が、自らのサイトで偽りの反撃をしたものだから、事態はワシントンを巻き込んで拡大している。

 田中は講演で「5人の家族の子供たちのことを考えると、約束を守ることが必要だった」と安倍らとの立場の違いを説明した。頷ける理由だろう。その後の展開を見れば、小泉の判断は間違っていた。いわんや外交の基本は信頼である。それをぶち壊した安倍ナショナリストに非がある。
 田中邸には、その後、右翼の嫌がらせが起きた。彼は大学へと転身するしかなかった。正義が敗北したのである。これは外務省内も、国家主義が大勢を占めていることを裏付けている。
 安倍側近は谷内とかいう右派の元外交官である。米ホワイトハウスはリベラル、東京は国家主義という構図なのだ。日米関係は深刻なのである。米中蜜月の背景ともなっている。元CIA職員の暴露事件でも両国関係がおかしくなることはない。
<官界・言論界も国家主義化>
 日本の霞が関・外務省は、小泉内閣と米ブッシュ政権下で右翼化・国家主義化が進行している。彼らのチャンネルはネオコン共和党右派が主流である。これはワシントンの日本人特派員もそうである。
 CIAに組み込まれている。ネオコン・CIAの手先となっているジャパン・ハンドラーズ(日本調教師)と連携している。要の大統領府とチャンネルがないのだ。
 毎日新聞で爆弾証言をした田中均に、揺らぐ足元を見透かされた安倍が、激怒した理由である。所詮、ナショナリスト政権を容認することは、67年前の占領政策を拒絶されることを意味する。安倍の刃は、ワシントンに向けられていることになる。
 侵略を容認しない、東京裁判を認めない国家主義に、当時の戦勝国である中国と米国が怒り狂って当然なのだ。安倍は自民党総裁から、その後に首相になっても、そうした過去を正当化する発言を新聞テレビ、そして議会答弁で延々と発してきた。
 米連邦議会調査局が安倍ナショナリストと決めつけた理由である。オバマは安倍との会談を1カ月も遅らせ、その接待も韓国の大統領とは天地の開きがあった。安倍の言う日米同盟の真実を、ワシントンは見抜いてしまっている。
 ホワイトハウス国務省国防総省も、今ではリベラルの天下となっている。対立する安倍国家主義に塩を送る公明・共産両党を、筆者が批判する理由だ。
 安倍国家主義に染まる議会・官界・言論界に日本の危機が存在する。
<根ッ子は財閥>
 日本国家主義を背後でコントロールしているのが、三井や三菱などの財閥なのである。武器弾薬製造と核発電所建設と輸出攻勢に血道を上げている。安倍外交と防衛政策が裏付けているだろう。国家主義平和憲法に挑戦していることなのだ。それが安倍路線の危険極まりない核心なのだ。参院選に総力を挙げる最大の理由といっていいだろう。リベラルの台頭が求められている。
2013年6月25日6時50分記
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