本澤二郎の「日本の風景」(1344)

<田野倉雅秋バイオリンコンサート>
 交響楽団による演奏会には数回しか行ったことがない。古典音楽に美しい曲は、不思議と多くCDで聞いたりする。ベートーベンの田園は思い出がある。教職課程で九段中学に派遣された時、音楽室で偶然かけたレコードが田園だった。第一楽章はいつ何度聞いても美しい。昨7月13日夕、渋谷で田野倉雅秋バイオリンコンサートに行く機会があった。彼の母親が声をかけてくれたお陰である。



<芸術は天才・プロの世界>
 数メートル先でバイオリストが、生演奏をしている場面など想像したこともない。だが、本当に弦を弾いている。こんな経験も珍しい。目の前のプロの引くバイオリンの弦から絞り出る音色は、美しく、かつ力強いことに感動してしまった。
 作曲家もすごいが、演奏者もすごい。彼は天才に違いない。母親の薫陶のせいであろうが、当人に天性の才があったのだろう。前2曲は子守唄のようだったが、ベートーベンの「ロマンス」は、椅子からずれ落ちそうにうっとりさせられた。
 ある意味で彼ら芸術家は幸せである。自らの技量を高めるほどに、名声を博することが出来る。インチキ・イカサマはなしだ。その点で、現在の新聞やテレビの記者は哀れである。
 余談だが、渋谷は10数年ぶりだろうか。渋谷駅で迷わないように「忠犬ハチ公」改札口へと急いだ。出ると、黒山の人だかりだ。中国の都市と変わりない。若者が多い。蒸し風呂のような路上にたたずむ心理がわからない。とてもではないが、足を向ける場所ではない。
<新聞テレビはヒラメ記者ばかり>
 7月12日に久しぶり、日比谷・内幸町の日本記者クラブに立ちより、その後東京地方裁判所、ついで市政会館の長沼さんの事務所に寄ってみた。彼は朝日新聞OBの原稿を校正していた。
 原稿の内容は、後輩の記者らを皆「ヒラメ記者」だと酷評するものだった。反骨の記者は一人もいない、と嘆いていた。今このヒラメが新聞テレビ界で一般化しているという。
 ヒラメは水底にじっとしている魚だが、目だけは格別に鋭く回転させて、四方八方周囲の様子を監視している。信じないかもしれないが、マスコミの世界にプロ、勇気ある記者はいない。ヒラメばかりなのである。

 ネタは、いたるところに転がっている。安倍の健康問題だけではない。原発メーカーと安倍の蜜月の裏に何があるのか?いくらでもある。
 政府自民党を崩壊させかねない事件では、徳洲会が蓋を開けて待っている。捜査しない鹿児島県警に、地元住民から怒りの声も出ているという。石原のセガレの選挙違反事件も、いまだ蓋をしたままだ。小沢問題を扱った検察審査会も疑惑が露呈してきている。
 この日の真夜中、品川区内の道路の補修工事が午前1時を過ぎても行われていた。安倍・自民党の公共事業のバラマキ予算のせいだ。土建屋に金と票を要求している事件と関係している。大騒音で、道路周辺の住民は眠れない夜を過ごさねばならなかった。

 話を戻すと、ヒラメ記者の背後には、ヒラメ編集幹部が雁首をそろえている。両者でにらめっこしているのである。国民に奉仕するジャーナリズムは、そこに存在していない。
<「日曜クラブ」のK記者講演>
 ヒラメ記者にうんざりしていたところに、伝統ある「日曜クラブ」事務局からの講演録が届いた。原発取材記者の福島報告である。何か参考になるものがあるのだろうか、そう思って6ページの講演内容に目を通してみた。
 真面目な経済部記者であることは理解できたが、果たして勇気ある反骨のジャーナリストと言えるのかどうか。

 筆者が期待した文言は、全くなかった。東電に捜査権を行使しないことについて、彼は追及していなかった。それは、彼の関心外だった。メルトダウンを2カ月も嘘をついてきた事実関係にも興味があるが、そのことにも触れてなかった。
 なぜ議会の調査が甘いのか、その背景に何があったのか、という疑問にも触れていなかった。東電と三井財閥の関係も、彼にとって無関心なことだった。いわんや核爆発した東芝製原子炉にも目をつむっていた。「日曜クラブ」には申し訳ないことだが、K記者から得るものは何もなかった。
<遺棄毒ガス報じるABC企画>
 安倍の関心外の事件に遺棄毒ガス処理問題がある。其れが今どうなっているのか?筆者も時々忘れがちになる。しかし、ABC企画委員会が発行している機関紙は、それを執念深く追及、報道して妥協しない。それが届いた。
 筆者もよく知らないのだが、内容からすると、実に真面目な市民団体によって、継続して機関紙を発行している。頭が下がる。
 「ABC企画NEWS」84号によると、中国南京の処理が1年前に完了したという。15年もかかった、というのだ。「続いて武漢に移動する。今年度中に250発処理する」、その後は広州へと足を伸ばす予定。気が遠くなる処理作業である。
 これほどの被害を与えている日本だ。67年前が、今も続いている。この事態に安倍は、どれほど心を痛めているのであろうか。
<ハルバ嶺に40万発も>
 中国北方は、まず石家荘で「本年中に1411発を処理予定」という。続いてハルビンに移動する。東北全体で約5000発を処理するという。
 これで終わりではない。ハルバ嶺には40万発の毒ガス弾が眠っているというのだが、まずは9月から、その発掘を開始する。これはドえらいことである。戦前の負の遺産に、何人の日本人がこのことを知っているだろうか。それでいて安倍内閣は、戦争の出来る日本にすると公約している。気が狂っているのだろう。
<自公与党に軽く過半数
 そんな安倍・自民党公明党が支援して、軽く過半数をとると新聞テレビは合唱している。無党派有権者投票率を下げる作戦に、新聞テレビが貢献している。結果は、組織票のある自公共が議席を多く獲得できる。

 其れはさておく。遺棄毒ガス弾処理の今年の予算は240億円、今後も毎年200億円程度の費用が投入されるという。「右翼の妨害を排除してゆく」とABC関係者の決意は固い。恐ろしい戦前が、中国の今と将来にも続いていく。そんな中での国家主義首相を、これらをヒラメ記者はまともに批判しない。
2013年7月14日記