本澤二郎の「日本の風景」(1346)

<日本調教師が日本記者クラブ出演>
 日本馬・安倍の調教師、ジャパン・ハンドラーで知られるマイケル・グリーンがやってくると言うので、7月16日午後、重い腰を上げて内幸町の日本記者クラブを覗いてみた。最近のワシントン特派員のほとんどは、多かれ少なかれ彼の世話になっているらしい。不勉強な筆者は、数年前、在米30年のワシントン通・F氏に解説されるまでマイケルを知らなかった。鼻の下に八の口髭をはやしている姿をネット写真でみたが、現物もその通りで背伸び好きの政治学者を印象付けていた。ネットで調べると、底の浅い反共学者である。


 このレベルの人物が日本の外交・安保政策に関与、飯の種にしているのだから、日本保守派もタカが知れる。現在、朝日OBが右翼「日本財団」から金を引き出して発足させたサークルに招かれて、日本の若手右翼学者にカツを入れているらしい。年末に報告書を作成するのだという。この朝日OBはCIA協力者としてネットの人気者だ。田中真紀子外相(当時)が、約束をキャンセルした米海軍上がりのR・アーミテージの子分がマイケルの素顔だった。

 マイケルは、椎名素夫の秘書をしている。彼は岸信介の仲間である商工官僚、すなわち侵略戦争の元凶である財閥の代理人として、岸と同様に戦後政界入りした椎名悦三郎セガレだ。ここには岩動道行の秘書だったN君が、その後、素夫の秘書をしている。筆者はN君の案内で台湾入り、当時の国民党に対して中台和解を説きまくった思い出がある。
 マイケルが日本の安保政策を口走ると、それを愚かな日本人記者が重宝するため、いっぱしの日本通となったのだろう。リベラル無縁のネオコン。米産軍複合体・CIAとのつながりを指摘されている。そんな人物の会見に白い髪の記者OBらが、記者クラブ10階に詰めかけた。筆者もそんな一人なのだったが、もう2度と近くで顔を見ることはないだろう。
<安倍ナショナリスト擁護>
 ご存知、米連邦議会調査局は安倍をナショナリスト国家主義者と分析している。マイケルはそれを強く意識しているらしく、必死で安倍を擁護した。「安倍首相はナショナリストと言われているが、彼が国を強くしたいというのは必要なことで、アメリカも期待している」と持論を披歴した。現在のホワイトハウスと異なる立場を、冒頭から表明したものだから、彼の正体見たり、である。
 改憲軍拡で潤うネオコン・産軍体制の代弁者であることを、筆者の脳裏に叩きこんでくれた。ワシントンの日本調教師は、オバマ代理人とはほど遠い。
 彼は21日の参院選は新聞テレビの予想に満足しているためか、政局について触れようとしなかった。アベノミクス第3弾に強い期待を寄せた。彼にとって今大事なことは、日本経済の立て直し、そして次が集団的自衛権の行使だとも公言した。
 経済が崩壊している日本こそが、日本ネタで商売するワシントン右翼にとって一番困る。しかし、そのあとは軍事利権をむさぼろうと言うのだ。むろん、TPPの日本参加もうれしい悲鳴なのだ。そういえば、マイケルは原発問題も触れなかった。「中国の台頭」を何度も口にして、日本に警鐘を鳴らすことを忘れなかった。
尖閣問題で不協和音>
 「日本の外交政策についてワシントンでは二つの議論がある。一つは中国重視、他は日米重視だ」とも言及して、彼が後者の立場にあることを解説した。ワシントンの本流は、経済重視の前者にある。中曽根バブル崩壊後の日本の地位は、大きく落下している。台頭する中国に舵を切るのは自然だろう。
 だが、ワシントンのネオコンは、それでも日中関係の悪化による軍事的利益に特化している。そんなマイケルのトーンをよく理解できる。彼はこんな発言もした。
 「私は共和党民主党を批判することが趣味。尖閣問題で中国が軍事力を行使すれば、日米安保が適用される。これに一切の疑問など持っていない。しかし、一部で信じられていない」
 日米安保の適用について、日米共に、さらに民主・共和両党に相違点がある、といいたいらしい。ここの部分が不透明なので、彼はワシントンに来て「しっかりと説明してもらいたい」というのだ。「日本政府は対中戦略をはっきりと打ち出せ」ということらしい。
 争いを好む、そこから暴利を手にしたい米産軍体制の思惑を感じさせるマイケル発言である。
<日韓関係悪化は困る>
 日本の対韓政策について、彼は「共和、民主とも日韓の関係悪化に困っている。中国への対抗力を弱めている。日本の好感度は中国と韓国ともに悪い」と言って悲鳴を上げた。安倍の歴史認識に対して、安倍擁護派も打つ手はない、といいたげなのだ。
 天皇国家主義政教一致体制である。これが全ての根本にある。過去を否定できない。正当化しなければ、靖国の論理も成立しない。日本国家主義の最大の恥部にマイケルもお手上げなのだ。
 ワシントンのネオコンからも、安倍対韓外交は落第というのだ。
ホワイトハウスお払い箱も支援>
 マイケルは色が強すぎる。そう判断したような朝日OBは、民主党のケリー国務省をお払い箱になったカート・キャンベル前国務次官補も、この記者会見に参加させた。無論、二人とも仲間であるが、ブッシュ政権に参画したマイケルよりも、カートの方が穏健派だ。
 ヒラリー国務省で4年間働いたカートは、その間、25回、来日する機会を得ている。彼は面白い比喩を紹介した。「ギャングはどうして銀行に強盗に押し入るか。それは銀行に金があるからだ」「アメリカは21世紀のアジア・太平洋に深く関与していく。それはこの地域は活力(アクション)に満ちている。そのためにも、パートナーの日本との協力は不可欠」
 衰退日本でも使い道がある、という点で、二人とも共通している。日本属国論者は、生涯の稼ぎ場所というのだろうか。彼もワシントン内での二つの考え方を示した。「中国中心で行くのか、それとも同盟国との緊密な関係維持か。同時にインドの参加を高めてゆく」と。
 彼は尊大ぶった態度を表明することも忘れなかった。「米国は日本を信用している。日本もアメリカを信用してもらいたい。70年余、日本の安定に寄与してきた。それを打ち切ることはない」と。
 そのアメリカもガタついてきている。歴史の潮流である。ローマが永遠であるわけがない。ロンドンも、ワシントンも。
 彼はオバマ習近平会談の一部を披歴して日本を満足させようと試みた。「習近平が、日本に懸念を表明した場面で、オバマはそれを遮って、日本は同盟国・友好国と明解に言った。これは他国にないもので、質を伴っている」、そのためにも「TPPを成功させる必要がある」と強調した。
 融和と安定性の北東アジアは宝の山だ。争いを避けて冷静に、大局を見失うな、という見解のようだった。安倍の名前は口にしなかったが、暴走馬への警戒心はやはりワシントンのリベラル派に強い。
<安倍8・15参拝はNOコメント>
 安倍の8・15靖国参拝は、隣国どころか世界で反発が強まるだろう。ネットが活躍する。日本は国際社会で孤立化する。敗戦を否定する天皇国家主義が、あぶり出されることにもなろう。それでも強行する安倍である。
 2006年の小泉参拝でも、ワシントンは厳しい判断を求められた。マイケルの証言である。イラク・アフガンに自衛隊を出動させた小泉を、戦争屋のブッシュはかばった。しかし、今はオバマのワシントンだ。北東アジアの大荒れを見たくない。水面下での安倍圧力が強まるだろう。
 いまや昔の中国ではない。韓国でもない。筆者には、半島と大陸の怒りが目に見えてくる。さしもの日本通・アジア通も、これにNOコメントだった。
2013年7月17日9時45分記