本澤二郎の「日本の風景」(1382)

オリバー・ストーン発言を活用する?新聞テレビ>
 米映画監督で歴史家のオリバー・ストーンは、善良な日本人が信頼できるアメリカ人である。広島・長崎・沖縄での、彼の数々の言説が裏付けている。作られたアメリカの戦後史と日本のそれは、そっくりである。為政者が正当化する虚偽の現代史を暴く正義の人だ。本当の歴史は隠されている。そのことをストーンは日本人に伝えている。彼の正論を報道することで、日ごろのうっぷんを晴らす日本の新聞テレビだ。裏返すと、それは不甲斐ない日本の無力マスコミを証明している。ナショナリズムに屈する危険なマスコミでもある。正義を叫べない新聞テレビの日本なのだ。


<その影響を恐れて報道は小さく>
 現にストーン発言を伝えるものの、扱いは小さい。注意しながら報道している。まるで、やんちゃ坊主が先生に隠れて、こそこそしているのに似ている。民衆がストーン発言に影響を受けることを心配している、政府や財閥のことを承知しながらの報道である。言論の自由を自ら封じ込んでいる。海外の日本研究者が想定出来なかった日本マスコミの真実なのだ。

 ご存知、彼のような言い分が、日本の新聞テレビに登場することは少ないか、ない。どうしてかというと、反骨のジャーナリストは一人もいないからだ。ゼロではないが、彼らは排除されて生活の場を奪われている。右派の論陣が、テレビや新聞を占拠している。マスコミ首脳らが、スポンサーのいいなりなのだから。根ッ子は金である。金で動く新聞テレビの日本である。

 ストーンの歴史観は、筆者とほとんど変わらない。ただし、全てを確かめたわけではないが、彼は日本にいないため、天皇分析がない。唯一の弱点である。ここは、しかし、とても大事な点である。米公文書館を洗い出して真実を明らかにしてもらいたい。
 なぜ天皇制を残し、そこで何があったのか。なぜ日本に原発を押し付けたのか、を公文書館の資料で調べ直してほしい。日米の腐った関係を公開してもらいたい。
<NHKは誰も見ていない午前零時放送>
 ストーンと歴史学者のピーター・カズミックがまとめた「もう一つのアメリカ史」をNHKは、8月25日の午前零時にも流した。多くの日本人が床についている時間である。せっかくの番組も「見るな」という当局の意向に従った時間帯であることがわかる。悲しいNHKである。

 改憲軍拡に走る安倍にとって好ましくない番組だからである。
 いうまでもなく、NHKは極端なほどスポーツ・芸能番組に力を入れている。国民に真実を伝えようとしていない。あえて理由を説明する必要が無いだろう。これもナチス流だ。独裁者の意向に沿った番組編成をしている。肝心のニュースにしても、政府監視という重要な役割を果たさない。むしろ、広報宣伝に専念している。
 3・11の福島原発報道で国民の多くが、NHKの嘘を知ってしまった。政府・東電の嘘と隠ぺいに協力した。ジャーナリズム喪失のNHKである。ストーン関連では、唯一TBSの報道特集が突出していた。
<嘘で固められた戦後史>
 ストーンは、ブッシュ前大統領とはエール大学で学んだ仲間という。保守派のアメリカ人だった。志願してベトナム戦争に加担、そこで悲惨すぎる戦場と米軍の暴走を思い知らされた。生還して、それを映像にした。「プラトーン」がそれだ。戦争屋ブッシュの2つの戦争に、とうとうしびれを切らして「本当のアメリカ史を記録する」と思い立った。ブッシュ8年間のアメリカの狂気に、まともなアメリカ人として覚醒したともいえる。

 人間は記憶出来る。この記憶が歴史を綴る。誤った記憶は神話を作り出す。正確な記憶でなければ正しい歴史は作れない。嘘で固められた記憶は、必ず崩壊する、させねばならない。今のアメリカは嘘で固められた歴史である、と断罪するストーンの歴史認識はまともである。
 中国では、毛沢東の誤れる過去を暴くことに成功している。日本では天皇分析が皆無、依然として神話の世界に追いやっている。
 筆者は、戦前もそうだったが、戦後の日本史も嘘で塗り固められている、としてこうしてペンを走らせている。アメリカの真似はよくない。余談だが、日本の中央銀行総裁は、目下、アメリカで「あなた方の真似をして円をがんがん刷りまくって、円安効果を上げつつある」というような宣伝をしているらしい。
<原爆投下で狂ったアメリカ>
 2発の原爆投下が戦後のアメリカを狂わせてしまった。本来のアメリカは、相次ぐ戦争で破壊されてしまっている。病んだアメリカだ、と訴えるストーンである。正確な歴史認識である。
 彼は、原爆投下のトルーマン大統領の嘘を暴いた。「日本降伏のため」は作られた神話に過ぎない。それを評価したブッシュ父親大統領も嘘をついた、こうしたアメリカの神話が今日まで続いている。歴史の真実は、原爆投下も空からの無差別爆弾攻撃も戦争犯罪である。ナチスが同じことをしていれば、間違いなく戦争犯罪として裁かれたであろう、と指摘する。同感である。日本人は、日本軍の重慶空爆を忘れてはならない。これも重大な戦争犯罪行為なのだということを。トルーマンの原爆投下の目的は、一つは実験のためだった、ウラン原子爆弾を広島、ついでプルトニウム原子爆弾を長崎に投下した。二つ目の理由はソ連へのけん制だった、というストーンの歴史認識は正しい。
 だからといって日本の侵略戦争が免責されるわけでは断じてないのだが。
 彼は、被爆者が10年間も放置されていたことに驚きを隠さなかった。詳しい事情を知らない日本人も、今回同じ思いをしたであろう。
 核廃絶を訴えている被爆者こそがノーベル平和賞をもらうべき資格があるともいう。全くである。
<まともな大統領はケネディのみ>
 ストーンは、キューバ危機を回避させたケネディ大統領を評価する。軍部の好戦派を抑え込んだケネディを、戦後のアメリカ大統領として評価した。
 彼が暗殺されなければ、ベトナム戦争は早期に中止したであろう。日本の沖縄の軍事基地も縮小か廃止されたであろう、と筆者には想定できる。ケネディ宇都宮徳馬との会見で「軍人が海外で評価されることはない」と明言していた。宇都宮から聞いていた筆者である。
 彼はクリントンオバマにも厳しい視線を向けている。産軍複合体に迎合しているからだ。2期目のオバマに期待する筆者は、少し甘いのかもしれない。
<ストーンでも天皇追及ゼロ>
 日本で伝えられたストーンの発言からは「天皇責任追及」が抜け落ちていたように思う。画龍点晴を欠いている。遠慮からか、それとも?ヒラメ記者が質問しなかったからだろうが。

 ただし、こんな発言をした。「中国に対して、日本は本気で謝罪しよう、そうすれば世界は驚くだろう」と明言した。この認識も正しい。
 9条を改正したあとの再軍備軍が、アメリカの戦争に加担すると、どうなるのか。「日本の若者は遺体となって次々袋に入れられて戻ってくる。其れでもいいのか」とも訴えた。日本の国家主義の野望に釘を刺した。その通りだ。
 「日本はアメリカの核の傘から飛び出せ」「原爆がアメリカ兵を救ったというのは嘘だ」という指摘と真実は、正解である。不道徳な日本政治だから、後者の言い分に反論できない日本なのである。
戦後68年、それでもまだ天皇研究は世界に存在しない。このことをストーンに伝言したい。中韓の日本研究者にも。
2013年8月26日7時20分記