本澤二郎の「日本の風景」(1401)

<五輪工作資金に官房機密費疑惑>
 ブエノスアイレスでのIOC総会では、予想外・異例の事態が起きていたことが、徐々に明らかにされてきている。サンクトペテルブルクでのG20を途中で抜け出した安倍首相、プレゼンテーションに皇族スピーチというおまけ、直前の票読み合戦などだ。大がかりな仕掛けの存在と、そのための買収工作を印象付けている。案の定、官邸と経済界に明るい友人は「官房機密費を投入したもの」と伝えてきた。触れざるを得ないだろう。




 当初は「石原慎太郎の五輪利権確保が招致合戦の背景にあった」と見られてきた。利権に目ざとい都知事は、羽田空港の拡張利権に飛びつくや、すぐ隣の有明の広大な用地に目をつけて、そこにカジノを持ち込もうとした。強引に築地市場移転問題を処理したが、ギャンブル利権については都民の理解を得ることが出来なかった。
 そうして五輪利権となったのだが、大金を使い果たしながら失敗、医療福祉を重視する都民を安堵させた。従って、今回は安倍に任せた。石原は安倍の祖父・岸信介の配下となって、日中友好に反対した青嵐会幹部だった、という仲間意識がある。
 同じく青嵐会メンバーで安倍の後見人・森喜朗は、運動で早稲田大学に入学した御仁。要するに旧岸・福田派の利権として格上げ、それをアベノミクス浮上に利用する、との思惑の下で推進したものだろう。口の悪い政界雀の「430万票獲得した?イノブタの成果ではない」(自民党筋)との指摘は、その通りかもしれない。
<仕掛け人は官房長官と元電通幹部?>
 かくして五輪招致工作は官邸が主導した。先立つものは金である。官房機密費の登場ということになる。このことについて、元ジャーナリストの友人は「官房長官と元電通幹部が計画を練った」と明かした。
 「ふんだんに使う」という作戦が浮上した、というのだが、存外、本当かもしれない。政治家や役人の買収工作に比べて「民間人のIOC委員は容易に出来る」というし、其れを期待して委員になる者も少なくない。IOC委員は貴族らの利権ポストなのだから。
 こうして事前の票読みは可能となった。選考基準には「IOC会長の出身地域以外から」という不文律がある。マドリードの可能性はゼロだった。イスタンブールと東京の一騎打ちが、スタートから決まっていたことになる。
<フランスを攻略>
 外交権も活用した。2024年開催を目論むフランスへの工作である。「フランスは旧宗主国として相当の票を持っている」ことも幸いした。
 次のIOC会長は、現在のドイツから欧州以外に移る。正に貴族のお遊びゆえのルールなのである。フランスを味方にしての東京だったのだ。
 倫理観の乏しい世界での決定だから、東京の放射能問題は重視されなかった。安倍の嘘発言に満足するIOC委員ばかりだった。現に東京決定後に、欧米IOC委員は「放射能問題は解消した」とあっけらかんとして日本のテレビに語っていた。
<IOC総会前に確定>
 消息通は「アルゼンチンでのIOC総会前に、既に東京開催で確定していた」と語っているのだが、恐らくそうなのであろう。だからこそ、安倍も猪瀬も英文スピーチの特訓をして、会場へ乗り込んだものだ。プレゼンテーションの場面を何度も、何度も放映するNHKである。茶の間の日本人は「安倍も宮澤さんのような英語使いだ。大したもの」との誤解をしている。
 確かに安倍は若いころ、訪米経験を有する。しかし、筆者は安倍の父親のライバルの事務所で「セガレは薬を覚えてきた」という話を何度も聞いている。決して英語力が宮澤喜一レベルということはない。
 安倍の学生時代、秘書時代を知っている外語大出身の友人は、笑っているほどだ。要は、たかがオリンピックなのだが、しかし、これによって東北復興が遅延することになる。財政悪化が進行する。これは国益にマイナスである。いただけない。
国政調査権で官房機密費(血税)を暴け>
 国民の代表はいるのだろうか。いるとすれば、即座に国政調査権を行使して官房機密費の内実を明らかにしなければなるまい。急ぎ、主権者に公開する義務があろう。
 国政調査権の活用について、多くの国会議員は無関心である。野党が無力化している現在は、なおさらこれを有効活用しなければならない。血税は1銭も無駄遣いしてはならない。その余裕などない借金大国なのだから。
1945年を経験した従来の財政家は、借金を徹底して嫌った。健全財政を基本に80年代まで過ごしてきた。それが中曽根バブルとその崩壊で、日本は新たな1945年を迎えてしまった。このことに日本の為政者は無頓着すぎるのである。その極め付きが安倍内閣の円刷り政策である。
 「円を刷りまくってもデフレは解消しない」「必死で値下げ競争をして、そこで倒れる若者が多い」という現実を理解できない政府を、高支持率と吹聴する新聞テレビも罪深い。
2013年9月17日7時20分記