本澤二郎の「日本の風景」(1415)

<韓国紙が安倍発言に鉄槌>
 安倍発言を韓国紙は入念に分析、それを活字にしていた。9月28日の「中央日報」は、国連での安倍の“狂気”演説に鉄槌を加えていた。日本の新聞との落差である。自ら「右翼の軍国主義者と呼んでもらって結構」と右翼シンクタンクで発言した安倍の国連演説は、隣人や隣国の激しい怒りを買うものとなった。ご自分のことは棚に上げて、いいたい放題の日本国首相の評価は、さらに大きく下がってしまった。


<女性人権強調を皮肉る>
 従軍慰安婦問題について、安倍は一言も語ろうとしなかった。それでいて女性人権をやたら強調した。この矛盾に気付かない者がいるだろうか。
 欧米の人権思想は徹底している。これにアメリカ政府や議会・市民とジャーナリストは、特に厳しい目を向けている。そこでの安倍発言は、即刻正体を暴かれてしまった。とりわけ韓国紙は、女性の人権を強調した安倍発言を、皮肉を込めながら厳しく批判した。安倍演説に、国連総会の議場は、右翼シンクタンクの会場と全く異なり、冷ややかな空気に包まれた。
<総会議場は沈黙、拍手なし>
 中央日報記者は、安倍演説のさいの総会議場の様子をじっくり取材していた。「拍手ゼロ」「沈黙」と記事にした。さすがである。日本の新聞を見ていないが、恐らくこうした雰囲気を、読売などは絶対に記事にしていないだろう。
 ブエノスアイレスでは特訓英語を披歴したが、もっと大事なはずの国連総会では、日本語で押し通した。
軍国主義復活を警戒>
 安倍がヒトラー並みに連発した「積極的平和主義」を欧米ジャーナリストは「攻撃的」「好戦的」と受け止めたが、韓国の新聞記者も同様だった。「軍国主義の復活が懸念される」と決めつけたのだ。当人が「軍国主義者と呼んで」というほどだ。しごく当たり前の評価であろう。
 的を突いた分析であると筆者もそう思う。彼が再三力説した集団的自衛権の行使とも連動する「積極的平和主義」なのだから。それにしても、とんでもない人物を首相に選んでしまったものだ。
 安倍演説のあとに「日本の要請で、韓日外相会談が開かれた」とも韓国紙は伝えた。そこでは岸田外相から「水産物輸入禁止を解除してほしい」と要求してきた。韓国外相が「慰安婦問題はどうなのか」と切り返したことに対して「法的に解決済み」と応じたという。
 この報道が事実だとすると、日本政府は韓国に対して高飛車に出ているのであろうか。対等平等ではない。事態は一層複雑化させてしまったことになる。直後に中韓外相会談が1時間かけて行われ、対日歴史認識で共同して対抗することを確認したようだ。
 国連での安倍演説は、アジアでの日本孤立を深める結果となった。安倍外交の大失態である。日本の新聞テレビは、こうした真相を伝えていたであろうか。
<10・17靖国参拝を警戒>
 安倍の国連演説は、隣人に新たな警戒を呼び起こしたことで終止符を打った。信頼は生まれなかった。国粋主義者の本領を発揮したものだから、それは当然のことだった。
 韓国紙「中央日報」は、10月17、18日の靖国参拝について言及した。安倍監視の次なる標的は靖国の秋の例大祭なのである。
 神国・日本を信じている愚かな国粋主義者次の一手に、隣国は警戒警報を発したことになる。時あたかも、現代人にはさっぱりの伊勢神宮式年遷宮とやらが執り行われている。神がかりに何人の日本人がついてゆくものであろうか。
<小安内閣説浮上>
 安倍晋三を総理に持ち上げた小泉純一郎という関係であろう。安倍は彼のセガレを復興政務官という政府の役職につけるという。肩書の世界は健在らしい。小泉本人の要請か、それともジャパン・ハンドラーの注文、それとも本人の希望なのか定かではない。
 ご存知、靖国参拝首相というと、中曽根に次いで、小泉は6回も参拝して近隣外交を破綻させた。その後継者の靖国参拝の行方は依然として日本外交の足かせとなっている。
 小泉と安倍の関係が注目されるが、霞が関に詳しい事情通は「安倍の周囲は元小泉側近で固めている。小安内閣そのもの。東芝竹中平蔵だけではない。野田内閣はパナソニック松下政経塾だったが、現在は原発推進派が官邸を牛耳っている」と見ている。
 ありうるだろう。小泉は原発ゼロ派に変身したというが、安倍にその気は全くない。安倍のバックは、東芝・三井・日立の原発御三家だ。財閥が動かす政治なのである。TPP参加や消費税8%は、財閥の意思なのである。
<勇気ある日本人>
 国家主義に翻弄される日本は、それでも政治は安定している?理由は新聞テレビがまともな評論をしないからだ。ジャーナリズム不存在による。彼らの糧道を、財閥がコントロールしていることと、それに屈する編集人によるからなのだ。
 日本にアメリカのスノーデンに相当する人物が現れない。これも悲劇だ。しかし、全く正義の日本人がいないわけではない。小さな勇気を出している日本人はいた。昨日のTBS報道特集が、元千葉県がんセンターの志村福子医師や浜田正晴オリンパス社員、それに自衛官の勇気ある活躍を映像で伝えてくれていた。この種の報道を、新聞テレビが率先して扱う風土のない日本に問題があるのだが、そんな中でTBS報道特集番組だけは立派である。
 政府機関・企業・団体は、多かれ少なかれ組織的に問題を抱えている。不正行為を行っている。「おかしい。止めるべきだ」と内部からの改革が不可欠なのだが、組織の長は正義の士を押しつぶす。勇気ある人間をワルに仕立て上げる。
 どこの国や社会でも見られる現象だ。だが、それでも法廷闘争や公益通報者保護法を利用して内部告発をする者も出てくる。不正と戦う、いい日本人が志村、浜田さんらである。

 公益通報者保護法をご存知だろうか。正義の訴えが不利益にならないように保護する法律だが、実際は問題法であることが、当事者の説明で初めて知った。その責任を果たしていないのだ。
 法律に問題があるというのに、法改正をしようとしないのだ。福田内閣が発足させた消費者庁は、当初はまじめな役所だったが、自公政権発足で組織側に立って判断している。国家主義政権のもとでは、余計にブレーキがかかって、勇気ある日本人が疎外されている。

 新聞テレビが勇気を出せば、簡単に片付く問題である。ヒラメ記者を窓際族にすれば済むことである。安倍との食事にうつつを抜かす新聞テレビ首脳への警告でもある。安倍や小泉の暴走を許す、こんな財閥支配の日本でいいのか。
2013年9月29日5時50分記