本澤二郎の日本の風景」(1536)

<「アメリカの大警告」が的中>
 拙著「中国の大警告」(データハウス)の姉妹本の「アメリカの大警告」(同)のことを、最近よく思い出してしまう。93年3月、1カ月かけての全米を歩いたレポートである。自画自賛したいほどよく書けている。国家主義の台頭が、日米対立の引き金になると分析した点である。クリントン政権発足時のことだったが、2期目のオバマ時代と政治環境が重なる。見事なくらい的中している。



宮澤喜一元首相が絶賛>
 この本を誉めてくれた人物が一人だけいた。宮澤喜一である。政界の大秀才・大の英語使いで知られた政治家である。漢籍にも通じた、これまた政界の第一人者で、リベラル・平和主義を信条とした。今の岸田外相とは親類に当たるはずだが、こちらは安倍にひれ伏していて、宮澤の足元にも及ばない。
 戦後の吉田内閣の時点からワシントンの交渉に関与してきた、日本政界随一の米国通だ。その宮澤がこの本を絶賛したのだ。
 当時は、そんなに感動したわけではない。しかし、今の安倍内閣とメディア事情を考慮すると、見事に不安が的中しているのである。
 「アメリカの大警告」も「中国の大警告」に劣らず、リベラル・正義・日本国憲法の視点で取材してまとめたものだ。
<副題の小沢一郎安倍晋三を入れ替えるとぴったり>
 93年当時の自民党を知らない向きには驚きかもしれない。当時は竹下の盟友・金丸が横暴を極めていた。その傘の下で小沢も暴走していた。安倍は、まだ父親の秘書か1年生議員だったころである。
 したがって副題に小沢一郎としたのだが、これを安倍晋三にチェンジすると、分析の多くが的中するのである。現在の小沢は、かなりリベラルに立場を変えているので、ずっとよくなっている。ただし、過去の過ちについての反省を聞いたことが無いのが残念だ。
<安倍と読売の野望に警戒>
 すなわち副題を「安倍と読売新聞の野望に警戒を強めるワシントン」とすると現実味を帯びる。読売新聞は、ご存知の通り、国民に奉仕する新聞では全くない。中曽根内閣から極端に変質している。中曽根・国家主義を自任している。

 それまでは新聞の切り抜きの対象だったが、中曽根新聞になってから止めた。読まなくなった。「新聞に値しない」と判断したからである。真面目な記者は皆はじかれていく。権力の走狗・財閥の宣伝に徹するようになってしまったのだ。
 あろうことか改憲案をまとめて、それを公開したのだ。当時、筆者はワシントンの息がかかっているものと判断した。確かめようとして、ワシントンに乗り込んで政府や産軍体制を取材した。
 読売改憲案の黒幕をワシントンで見つけることは出来なかった。その逆だった。日本国家主義の復活を策する東京に、ワシントンは警戒心を抱いていた。ワシントンが共和党右派政権から、民主党リベラル政権に替わったばかりの時期だった。
<日米衝突は国家主義の台頭>
 帯(おび)に「日米衝突の元凶は経済ではない。日本の国家主義の台頭こそ日米対決を再現するだろう」としたのだが、安倍内閣のもとでこれが具体化している。分析の的中とはこのことである。
 取材総括は「日本国家主義の台頭が日米関係の衝突原因」としたのだが、既に現在のワシントン(連邦議会調査局)は安倍の政治を国家主義国粋主義と分析、議会と政府に報告している。
 そうしてみると、安倍首相就任直後のワシントン訪問に対する扱いは、実にそっけないものだった。韓国の大統領や中国の国家主席のそれと比較すると、天地の開きがあることが理解できる。

 靖国参拝の衝撃も大きい。ケリー国務長官は目下、アジア歴訪中だが、日本をう回して韓国、中国へと足を向けた。やむなく日本の外相は、出発前のワシントンに出向くしかなかった。これだけでも、日米外交の破綻を印象付けている。
 そのはずで、ケリー長官は日本訪問のおり、わざわざ千鳥ヶ淵の墓苑に参拝して、靖国NOを安倍に明確に見せつけた。安倍はこれに真っ向、反発して靖国参拝を強行した。安倍とワシントンの関係は最悪といっていい。
 4月のオバマのアジア歴訪に、ワシントンは予定を変更して韓国訪問を加えた。其の分、日本滞在を短縮して、日本の国賓待遇を蹴飛ばしてしまった。
 今の日米関係は戦後最悪の状態に置かれている。日米同盟に深い亀裂が走っている。
<日系米人・徳野四郎の一言>
 カルフォルニアサクラメントで出会った日系2世の徳野四郎のことを、時々思い出す。「日本は二度と戦争をしてはならない」「平和憲法を日本国民は本当に喜んで受け入れていた。押し付け憲法は右翼の出まかせだ。国民の笑顔をこの目で確かめている」という徳野の言葉を忘れることはない。
 「平和のために汗をかいたGHQ時代が一番楽しかった。二度と戦争しない憲法を大事にして欲しい」とも訴えていた。安倍首相の内閣と公明党の大臣は、戦争をする集団的自衛権の行使に踏み出そうとしている。
<財閥の存在を85年に気付いたアメリカ人>
 ニューヨーク・ウォール街日本株のリサーチの仕事をしていたW・バレットは「85年の円高ドル安のプラザ合意の直後に、日本財閥の正体に気付いた」と証言してくれた。
 侵略戦争の元凶である財閥と軍閥を、GHQは真っ先に解体した。その財閥が復活して米国経済に打撃を与えていた。ワシントンに1%が存在するが、東京の1%は財閥のことなのである。
 政治経済を牛耳る財閥の存在をいち早く察知したアメリカ人は、過去の教訓を記憶していたのである。これをアジアでは理解されていない。今も。

 実際は、朝鮮戦争で復活、ベトナム戦争で急成長、関連して日本列島を公害列島にしてしまった。気がつくと、欧米の文化遺産まで買い占めた。中曽根バブルだ。崩壊して日本は地獄への坂道をまっしぐら落下している。
 ここにおいて財閥と極右の国家主義が台頭、ワシントンとの軋轢が表面化している。他方で、アジア・欧米の安倍封じが始動している。日本の新聞テレビは安倍人気浮上に神経をすり減らしているが、正確にはグローバル時代において、安倍は国際社会の包囲網でピンチに追い込まれている。
 世界は国家主義を容認するほど寛容ではない。
2014年2月15日4時30分記