本澤二郎の「日本の風景」(1559)

<ワシントンの最後通牒
 日米開戦の原因は、米国の最後通牒となった「中国からの日本軍撤兵」要求を、時の軍事政権がはねつけたことによる。要するに、欧米諸国が日本の中国侵略に待ったをかけたものだが、大陸の甘い汁を知った財閥も軍部も応じなかった。真珠湾攻撃はこうして起きた。




 3月6日にキャロライン・ケネディ駐日米大使が、初めてテレビ取材に応じた。オバマ最後通牒を日本国民にもわからせるためでもあった。彼女は大統領、悲劇の米国大統領の娘として、持ち前の笑顔を絶やすことなく、優しく安倍に諭すように国家主義の暴走にNOという、オバマ最後通牒を述べた。
<知性と倫理観の塊のケネディ大使の口から靖国NO>
 アメリカ・アメリカ国民を代表するキャロライン・ケネディ大使である。カメラに向かって怒りの表情など禁物である。
 安倍と違って、知性と倫理観の塊でもって、日本の国粋主義者・好戦派で反
共主義者の安倍とその支援者に向かって、間違っていると強く言外に言い放った。「韓国と日本は大事なアメリカの同盟国だ。仲良くしてほしい。まともな歴史認識を示してほしい。靖国参拝は世界が認めない」という意志を、繰り返し表明した。
<怒りの感情を笑顔で>
 大統領の表情は最初から最後まで、ほとんど同じでにこやかだった。ホワイトハウスの住人の意志を体現していた。それは父親の強い意志の反映でもあった。徹底的に相手を追い詰めたりしない。
 「わかっていることを、わざわざ言わせないでよ」という思いを感じる。彼女の意向、アメリカの考えを、高級紙NYタイムズなどが数回以上指摘している。安倍に逃げ道をしっかりと作った上で、同時に強力なワシントン・国際社会の意志を、安倍の心臓に叩きつけてきた。
 しかし、その場合でも笑顔を絶やさない。これは父親から学んだものだろう。正義の人は、米産軍体制の好戦派を激突、それでも屈しなかった。かくして銃弾に倒されてしまった。「父の無念」を晴らすためには、同じ愚は避ける。これが彼女の人生哲学ではないだろうか。
<国際常識を1度でわからないのか>
 「今さら戦後秩序を破壊するなんておかしいわよ。平和憲法は人類の悲願でしょう。我々は日本が再び戦前の軍国主義に戻ることに反対よ。アメリカだけではない。欧州・アジアも反対よ。国連もNOよ。どうしてこんな常識がわからないのよ」
 恐らく2人きりの懇談であれば、こうした発言をしたであろう。「1度いえば分かることでしょう。韓国や中国の怒りを私もアメリカ人、人類が共有していることよ。2度も言わせないでよ。あなたの周囲の仲間は、まるで気違いね」というキャロラインの思いを言外に伝えている。そう筆者は感じた。
NHK会長暴言に抗議して取材拒否したが>
 安倍分身のNHK会長の暴言にも世界は驚いた。改めて、人類は安倍の極右・国粋主義の正体に衝撃を受けた。むろん、キャロラインは心臓が破裂するほどだった。
 NHKの取材を拒否した。他方で、ワシントンの意志を伝える必要も感じていた。日本国民へのメッセージも、大事な大使の使命である。安倍に対してアメリカの最後通牒を突きつける必要もあった。そのことをソウル・北京・ニューヨーク・ブルッセルに伝える必要もあった。
 それゆえに、多少の時間をあけてNHK会見に応じた。こんなところであろう。それにしても、こんな恥さらしの日本国首相とNHK会長を、この目で確認しようとは思わなかった日本国民は多かったはずである。
 こんな政権を必死で支える公明党創価学会石原慎太郎らに、正直なところ怒り狂うばかりである。
<現場主義のキャロライン>
 キャロラインは、心の優しいアメリカ人である。学生時代に広島を訪問している。大使になると、長崎を訪れた。東北にも慰問に出かけたが、沖縄にも行き、普天間基地の移転先の名護市も訪問して、市長とも懇談、沖縄の苦悩を膚で感じてきた。
 歴代のアメリカ大使で、こうした真摯な対応を示した大使がいたであろうか。
 彼女は米産軍体制に殺された父の無念の、その一部を沖縄で感じたはずである。彼女の現場主義を評価したい。過去を否定する輩は、南京やハルビンに足を向けない。
 生前の宇都宮徳馬は、ケネディ会見記を筆者によく聞かせてくれた。「彼は軍隊、特に外国に駐留する軍隊に批判的だった。必ず悪いことをして、人々から嫌われるとね。彼が生きてくれていれば、沖縄に米軍基地もなく、米軍もいない」といって目を細めていた。
<父親の無念を胸に秘めて>
 ケネディこそがアメリカン・リベラルの本流だ。オバマもそのラインに乗ろうとして大統領になった。娘も父親の無念を心に秘めて大使となった。彼女の時代の到来に、希望の灯がわずかだが、見えてくるのだが。
2014年3月8日9時15分記