本澤二郎の「日本の風景」(1216)

アメリカの中東離れ>
 自民党星島二郎や中野四郎の秘書を歴任した中原義正が、昨日の早朝長い電話をかけてきた。なんと彼は1時間も電話口でしゃべりまくった。神戸外語大を卒業すると、そのまま自民党本部職員になった。そのあと国会議員の秘書を歴任した人物である。政界や日米関係の裏事情に詳しい。その一端を披歴してくれた。不思議と彼の分析と筆者のそれは、多くの点で一致する。どうしてかというと、二人ともひも付き人間ではないからである。ということは、新聞テレビに登場する人物は100人中100人がひも付き人間ということなのだ。制約を受け、自由のない世界で稼いで生きている。そこには狂いが生じる。


 中原は「アメリカの中東政策は大きく変化している。最大の原因は中東の石油の価値が下がってしまったからだ」と決めつける。
 なぜ、ブッシュはイラク戦争を強行したのか。イラクに石油が出るからである。石油が出なければ、戦争は起こさなかったのである。ご存知、ブッシュは9・11を口実にアフガン、ついでイラクには大量の猛毒・化学兵器があるという偽りの情報を吹聴して、侵略戦争の火ぶたを切った。目的は原油を略奪するためだった。
 ところが、最近になって無尽蔵のシェールガスが国内で生産出来るようになった。原油の価値は大きく低下した。遠い中東から、大金を使って輸送船で大量に輸入する必要が減少した。ワシントンにとって中東戦略は、根底から変化している。
 第一、若い米兵の命を差し出しても、イラク・アフガンで成功を収めることは出来なかった。ガスが手に入れば、これ以上、中東に振り回される必要はない。中東の戦略的価値は激減してしまった。
<イランとの戦争は起きない>
 全面的に手を引けばいいのだが、ワシントンにはユダヤロビーが暴れまくっている。台湾ロビーの比ではない。ワシントンを支配する1%でもある。
 これが中東のイスラエルから、手を抜けない理由だ。ユダヤ国家のための中東政策だし、そのための国連活動である。しかも、ここに手を突っ込むことで、石油利権を容易に操作できるというメリットもあった。
 その延長線上にイランとの戦争論が噴き出すことになる。イスラエルの核に沈黙する世界は、イランの核化に気違いのように反発する大矛盾を平然と行っている。不条理もいいところである。
 しかし、イランとの戦争は起きないだろう。筆者もそう思う。アフガン・イラクの戦争に勝利出来なかったワシントンである。イランとの戦争にも勝利出来ないことは、わかりきっている。新たな野蛮な戦争を起こせば、アメリカ国民の多くが反対に立ち上がるだろう。オバマの4年間にイランとの戦争はない、と断言出来る。イランへの空爆を求めるイスラエル政権に対して、オバマ政権は断固として反対している。
 ワシントンは、原油がらみの戦争をする必要がなくなってしまったのである。口先では威勢のよい声が発せられるだろうが、それだけのことである。ワシントンにとって中東の戦略的価値は低下してしまった。
<利権の山はアジア>
 しからば、どこにワシントンは向かうのか。アジア太平洋ということになる。その流れは数年前からだ。沖縄にしがみつくワシントンから容易に見てとれるだろう。
 普天間問題の根っこは深い。オスプレイ強行導入も、その一つだ。自衛隊を沖縄方面に移動させたことも、そのためである。防衛省はワシントンの指令一つで動いている。
 北朝鮮のロケット打ち上げに、異常な取り組みを見せる日本政府だ。東アジアに緊張を持ちこむ策略であることは、小学生でもわかるだろう。沖縄の反発を抑制するためだ。尖閣問題もその格好の材料にしている。
 最近になって米上院が、尖閣の施政権は日本にある、従って安保条約の適用範囲という決議を採択した。米産軍体制による、愚かな日本人向けの言葉だけのメッセージに過ぎない。ワシントンは、決して肝心の領有権について言及しない。
 利権の山はアジアにある。これがワシントン産軍体制の狙いなのだ。中東軽視のワシントンなのだ。自衛隊を使って中国けん制をしようとして、現に開始している。その先兵が石原だった。ついで野田であった。
 安倍は、その先に送り込まれた駒であることが理解できるだろう。ナベツネ読売の世論操作も、ここにあるとみていいだろう。ワシントンのアジア戦略に翻弄される日本、自立しない、従属・属国化する日本に問題の根本が存在するのである。
<米中の仲>
 しからば、米中関係はどうなのか。「米中とも仲のいい間柄」と中原は見ているが、これは宇都宮徳馬の認識と同じである。米中は戦争しない。歴史を知れば、それは容易に理解出来るだろう。「中国人はアメリカ人が好きである」「アメリカ人も中国が好きである」という事情を、多くの日本人は認識すべきだろう。
 93年の1カ月訪米取材の筆者に、多くのアメリカ人は中国事情を聞いてきたものである。成長中国で日本企業も大儲けしたが、アメリカ企業はもっと多く儲けた。
 中国の特権層である高官の子弟は、ほとんど米国に留学している。彼らをワシントンやニューヨークの1%が特別に面倒を見てきている。中国の富豪資産と家族は、主にアメリカに移転させている。ということは、問題が起きればいつでも彼らの資産を凍結できるのである。
 双方の対決は、双方に深刻な損害を与える。双方とも、それをわかっている。アフガンでも勝利出来ない米産軍体制が、北京に刃を向けることなどありえない。宇都宮ではないが、米中には「日本のような不幸な歴史は存在していない。対話すれば了解できる関係にある」のである。
<ワシントンのナベツネ
 中原は72年当時のナベツネのことを話してくれた。中野四郎は衆院予算委員長としてワシントンを訪問した。彼を待っていたのは、ワシントン時代のナベツネと日経記者だった。
 当時のアジア人の関心事というと、アメリカで氾濫していた白人女性のエロ本やエロ映画やエロバーのたぐいだった。この方面でナベツネは、格別の興味と関心を抱いていたという。
 日本から来た政治家をつかまえて、エログロの世界に案内していたという。中野は帰国後に秘書の中原にだけ、そのことを語って聞かせたそうだ。
 そういえば、衆院議長を歴任した読売OBの伊藤宗一郎は「ドイツのフランクフルトで、売春婦からナベツネの名刺を見せられた。このときは驚いた。帰国してそれをツネに話すと、彼は必死で両手を合わせたものだ」と筆者に語っている。下世話な世界でも大活躍した、堕ちた言論人だったことの証明か。

 モスクワで女遊びの現場写真を撮られた記者が、スパイ活動をさせられたという話は、先輩らからよく聞いたものである。
 極秘情報の一つに、中川一郎の自殺原因の中にも「モスクワのエージェントだった」という説がある。ちょうど正力松太郎のCIAエージェントのKGB版であろう。中川の訪米計画に対して、ワシントンはビザを発給しなかったという。CIAに正体を暴かれていたのであろうか。

 ワシントンは、戦略をアジア・中国に向けたが、背後では双方に太いパイプが通じている、という中原分析に頷ける。石原も野田も安倍もワシントンの謀略の駒にすぎない。ナベツネも、かもしれない。そろそろ自立する・独立国になる時期ではないのか。
2012年12月7日11時55分記